リクエスト頂いて、氷川きよしの「Jewel」のライブ歌唱の動画を拝見した。

このライブは、2017年9月に行われたファンクラブ限定のリクエストコンサート。

その映像だと思うのだが、この曲を聴くと、現在の彼の歌い方との相違点が非常によくわかる。

 

全体的な歌声は中音域の濃い響きの太めの声が主流だが、時折出てくる高音部は、ストレートボイスの張りのある明るめの声になっている。

現在の彼の歌との大きな違いは、先ず、言葉の処理である。

2017年の歌には、言葉の語尾の響きを抜いた音色は全く存在しない。

どのフレーズもきちんと最後の一音まで響きを保って歌われている。

これがこのようなJPOP曲では、フレーズが重い、音楽が前に進みにくいと感じる理由である。

現在の彼なら、もっとフレーズの最後の語尾の響きを抜いて歌うだろう。

語尾の響きを抜くことで、音楽が軽くなり、前へ進みやすくなる。

しかし、演歌には語尾の響きを抜くという歌い方はほぼ存在しない。どんな曲でも語尾まできちんと響かせて、一語一語を丁寧に歌うというのが、演歌の歌い方の特徴である。

それゆえ、この曲の氷川きよしの歌も、そのようになっている。

 

また高音部の明るめの響きの歌声だが、この部分にも演歌の特徴がよく現われている。

響きを鼻腔に入れ込み、明るめの声を作って歌っている。

張りのある歌声で、ストレートな響きを固定し、長く伸ばすフレーズではさらに鼻腔に入れた響きの音になっている。

この歌い方も、演歌特有の歌い方であり、この時点での彼の歌の特色がよく出ている。

今の彼なら、もっと混濁した響きで歌うのではないかと感じる。

ここまで鼻腔に響きを入れ込まないのではないか。

いずれにしても演歌特有の発声による作られた声、という印象を拭えない。

 

氷川きよしの歌は、進化中だ。

演歌の発声では、到底歌えないロックに挑戦することで、今までの歌い方の癖から抜け出し、新しいスタイルを確立しようとしていると感じる。

彼がこのように歌い方を変えられるのは、彼の声帯がベストな状態であるからに他ならない。

ポリープの手術をしたことが、彼に演歌以外のジャンルへの挑戦を可能にさせた。

 

 

声帯のコンディションというものは、歌手生命そのものに関わってくる。

いつまでも美声を保ち続けるには、歌手自身の強固な自己管理能力が必要になる。

自分を律する力。

それも歌手の重要な要素の1つである。