この歌を聴くのは、3度目だったと思う。

聴くたびに歌い込まれていくのがよくわかる。それは以前のレビューにも書いたようにこの楽曲を彼が強弱の変化によって構成していることから、歌い込まれるたびに、言葉の処理が非常にスムーズになっていく点にある。

 

歌詞は言葉の羅列である。

その言葉に緩急や強弱を与えることで、明確なメッセージとなってリスナーの耳に届く。

言葉をどのように処理していくかは、歌手個人の力量によって大きく異なり、それらによって曲そのもののイメージも大きく変わる。

 

氷川きよしの「母」は、言葉の処理が強弱によって明確である。強いフレーズと弱いフレーズが交互に現れ、それによって言葉にリズムが与えられ、音楽が前に進む。

 

今回、彼の歌い方で今までと異なると感じた点は、一番最後のフレーズの高音部。弱い音量で最高音を出す部分がファルセットになっていた。私の記憶では、今までの2回では、この部分は弱いながらも表声、即ちミックスボイス、または裏声の比率が大きいながらも表声の部分が残されていたように思うが、今回は非常に綺麗なファルセットで完全に抜いているのが印象的だった。

 

同じ曲を歌っても必ずしも同じ歌にならないのが、「歌」というものの特徴であり、だからこそ、その瞬間の歌は、唯一無二のものと言われる所以でもある。

特に氷川きよしは、練習熱心で有名であり、歌い込むほどに楽曲が変化していくと思われる。

その変化を楽しんでみたいと思う。