徳永英明の名曲「レイニーブルー」は多くの歌手がカバーしている。
「レイニーブルー」はジェジュンの歌を徳永英明自身が「一番上手い」というほどジェジュンのカバーが有名である。その曲をジェジュンと仲の良い城田優がどのように歌うのか非常に興味深かった。
「レイニーブルー」はサビの部分を情熱的に歌う人が多い。メロディーラインが歌い手の感情の高揚感を誘い、なんとも言えない切なさを伴うメロディーとなって聴き手の感情に迫ってくる。それゆえ、歌い手も感情の高ぶりを隠さず歌いきる人が多い。
その曲を彼は非常に冷静に歌った。その冷静さは曲との距離感や客観性というものではなく、感情の揺れをしっかりと自身で受け止めて動かない、という冷静さだった。
前半部分からサビまでの部分を彼はコントロールされた歌声で訥々と歌う。音楽が静かに動いていくのに対し、歌は前へ動かず、じっと佇んでいる。その佇みが彼の音楽の冷静さを感じさせる。この楽曲の持つ前半の「静」の部分を彼は響きを抑えた歌声で表現した。
彼の音楽が動いたのは、サビの展開部から。
それまでじっと耐えていた感情の高ぶりを一気に展開部の高音部に表現する手法を取った。張りのある歌声はエアー(ブレス)の流れに乗って綺麗に歌声が前へ遠くへ飛んでいく。
この歌声の転換は、それまでの低音域から中音域の歌声のポジションがきちんと上顎から鼻腔にかけてのポジションに当たっていたからこそできるものであり、そうでなければ、高音部は突き上げたような歌声になってしまう。この部分を彼はブレスの量を増やし、勢いよく当てていくことで声をエアーの流れに乗せて歌い飛ばしていく。
その転換が見事だった。
城田優は昨年「PIPPIN」と「ファントム」の二つのミュージカルに主演した。その両作品の主人公のパーソナリティーの共通項は、内部面の葛藤だったと思う。
ピピンもエリックも感情を上手く表現できない、という葛藤を抱えながら生きている青年だった。その葛藤を彼は非常に冷静な歌で表現したと思う。
感情の起伏である「静」と「動」を歌声の変化で表現するというテクニックを彼は完全に身につけていた。またこの2つの作品の経験が彼に歌手としての自信を与えたことは確かなことだと思う。
それは今回の歌が今までの彼の歌と大きく違うことを感じたからだ。
これまでも彼のカバー曲を何度か聴いたが、彼の歌はテクニックは確かなものの、どことなく楽曲に対する遠慮、自分の音楽性を表現することに対する消極性を感じたものだったが、今回の曲では彼が自分の音楽を表現することへの躊躇を一切感じなかった。
それはソロコンサートやディナーショーの経験を重ねることで、ミュージカル歌手という枠組みから自分のオリジナル性を堂々と表現することを躊躇しないアーティストへの転換の可能性をも感じる。
多くの歌手の歌声を聴いているが、彼ほど、この数年で大きく進化した歌手は他に見当たらない。
この曲の前に歌ったスキマスイッチとのコラボ「全力少年」においてもその片鱗を感じさせる。この曲で彼は気持ちいいほどの伸びのある歌声と豊かな声量を披露している。またリズム感においても音楽が前へ前へと進むノリの中でうまく歌声をコントロールして載せている。
どこまでも伸びていく高音と全ての音域を自由に歌いこなせるポジションを得て、彼は歌うことが楽しくて仕方がない、という様子を感じさせた。
これほど歌えたら、どんな曲でも歌える。
そう思わせた。
2月の最後の日、聴く予定になっていた彼のソロコンサートはコロナウイルスの影響で延期になってしまった。
それがとても残念だった。