13枚目のシングル「Right Now」は、両A面になっており、「Voice」はそのもう一つの曲になる。

彼自身の作詞、作曲になるミディアムバラード。

自身の葛藤や心の傷を書いたと言うだけあって、一つ一つのフレーズを覆う音色は、切ない。

元々持つ透明的な音色に加えて、泣きの響きをプラスすることで、力強さの中の葛藤を現しているのが印象的。

鼻腔に声を響かせることで、中音域の音色の中にそれを確立している。

「そう君だけ~そう君だけ~」とくり返されるフレーズが耳の中に残る。

この曲は、彼の特徴的な歌唱テクニックが、随所に見られる。

例えば、Aメロ、A’メロの歌いだしの部分に存在する語尾のアドリブ部分は、(クラシックでは、オブリガードと言うが)彼の音楽的センスの良さを現している。

アドリブ展開していくメロディーは、決して曲調やフレーズからはみ出してはいけない。歌手によっては、声を張り上げ、その部分を強調するように歌う人もいるが、彼は、決してそうはならない。破綻なくちょうどの形で納まる。

これは、彼の多くの曲調に見られるもので、非常にバランスのいい音楽を作り上げる。

以前、私は、彼のダンス力が、歌唱力と均衡を保っているからこそ、彼の世界が成り立っていると書いたように思うが、このミディアムナンバーでもそのバランスの良さが、彼の楽曲への表現に繋がっていると思う。

得てして、この種の歌は、思い入れを深くして、歌い上げがちだが、彼はそれをせず、抑えた歌い方で、内面の葛藤を現していく。

彼の歌は、非常に哲学的だと感じるときがある。

それは、緻密に彼の中で計算された歌い方をしていると感じるからだ。

一見、感覚的に歌っているように見えて、フレーズごとにどの声を使うのか、また、ことばによって、声の色合いを変えている。

そのチョイスが非常に哲学的だと感じる。

いつも三浦大知という歌手を客観的に見ている彼自身の中の別の目がある。

その客観的な視点が、彼の音楽が、どんなに激しいダンスナンバーであっても破綻しない確信とも言える部分であり、この曲の彼の歌唱にも現れている。