Folder時代のデビュー曲。彼が9歳の頃の歌声である。
聴けばわかる通り、綺麗なボーイソプラノの歌声だ。
この頃のボーイソプラノの歌声というのは、混じりっ気のない澄み切った綺麗な響きをしている人が多い。ボーイソプラノで歌えるというだけで、それは、天から与えられたものになる。それだけに、その後、必ず通らなければならない変声期は、余りにも残酷だ。人によっては、歌そのものを諦めてしまう気持ちになるぐらい、本人にとっても、周囲にとっても厄介な時期だ。
彼は、変声期を活動休止という形でやり過ごした。これは、非常に重要なことだ。
変声期の過ごし方についてや、変声期も歌い続ける事のリスクなどについては、いずれ別記事で書こうと思っている。
ただ言えることは、彼が「活動休止」というカードを切れたことは、周囲の十分な理解と適切な判断があったと感じる。
即ち、この休止期間が、その後の三浦大知という人の歌手人生を支えることになっていると感じるからだ。
「変声期」という男性にとっては、避けて通れない時期の過ごし方が、歌手人生そのものに与える影響は少なくない。昨今のアイドルブームで少年期から活躍するアイドルが多いが、彼らの変声期に関しては、事務所が注意深く管理する必要がある。少年期から歌い続けるアイドルにとって、事務所の判断が歌手人生そのものを左右するといっても過言ではない。
いずれにしても、三浦大知という歌手は、事務所の適切な判断のもと、幸運だった。
さて、「パラシューター」に於ける彼の歌唱には、その後の彼の歌手としての特徴の片鱗がハッキリと垣間見える。
1.伸びやかな発声
変声期前に彼の歌声は、綺麗なソプラノヴォイスで、いわゆる鼻腔にきちんとあたっている。
鼻腔というのは、その名の通り、鼻の穴、空気の通り道のことを言う。
歌で使うのは、鼻筋の部分、即ち、穴の少し上部にある鼻の先端部分で、わかりやすく確認する方法は、ハミングをしてみるといい。
ハミングをして、鼻の先端部分を触ってみると、ジーンと指に振動が伝わる部分がある。そこが、その人が歌を歌うときの鼻腔になる。
この鼻腔に歌声の響きが響いているのが、良い発声とされる。
それは、喉の部分よりもずいぶん上部で、声帯は、喉にあるのに、なぜ、この部分が響くかと言えば、空気の力で声をその部分に当てている為である。
ハミングとしようと思えば、自然と下腹部に力が入っているのがわかるだろうか。いわゆる腹式呼吸で使う腹筋も、その部分になる。
この場所に声が当たっているかどうかが、歌手として重要なテクニックになる。
三浦大知の少年期の声は、伸びやかで、やや鼻にかかった甘い歌声だ。
これは、舌根が柔らかく十分に押し下げられ、喉が十分に開いて、上咽頭から鼻腔にかけて響いている事を示す。
即ち、この時点で、彼は、歌を歌うことの基本テクニックを身に付けていた事になる。
2.明解な日本語
前記事で書いたとおり、三浦大知という歌手の最も特徴的な部分は、明解な日本語の発音にある。
どんなにアップテンポの曲であっても、日本語が飛ばない。
どんなに弱いフレーズであっても、言葉が伝達する。
これは、歌手として非常に大きな武器になる。
日本語の発音は、単純だ。「あ、い、う、え、お」という5つの母音しかない。
この母音に子音が組み合わさって様々な言葉が作られている。
母音そのものは、単純なのに、子音が組み合わさると厄介な発音になることがある。
これは、クラシックの歌手が日本語の歌を歌うときにもありがちな事だが、「え」の母音は、単純に「え」だけを歌えば簡単であるのに、これに子音が組み合わさると、途端に歌いづらいものになることがある。
たとえば、「~して」という歌詞の場合、「て」の「え」の発音でフレーズが終わる。短い音符で終わる場合は、それほど難しくはないが、長い音符で「て~」と伸ばすとき、歌手は、顎の状態が非常に不安定になる。
「え」の発音は、「あ」ほど、明解に大きく口を開けることもできず、「お」ほど、口をすぼめることも出来ない。
歌手は、口を大きく開けて、咽頭部分を開け、声の通りをよくしようとポジションを取るが、それでは、「え」の発音が、散らばってしまって不明瞭になる。その為に、口を横に開いて安定させようとする。これが、しっかりとした基礎発声のポジションが取れていないと、顎に力が入ってしまって、声が伸びない。
これは、一例だが、このように、発音と発声は、密接な関係を持っている。明解な発音を心がけようとすれば、発声が崩れないだけの発声テクニックを身に付けていなければ、発音が不明瞭になるのだ。
その為、歌手の多くは、基礎発声で、しっかり母音のポジションを身につける。どんな子音が組み合わさっても、基礎発声のポジションが崩れないように何度も何度も練習を重ね、自分の肉体に刻み込む。
これが、歌が、スポーツと同じと言われる所以でもある。
肉体にテクニックを刻み込んでいく作業は、スポーツ選手が、技術の習得のために練習を積み重ねる姿と同じだからだ。
三浦大知の明確な日本語は、既に9歳の頃には確立されている。
「パラシューター」のソロ部分の発音を聞いても、非常に言葉がハッキリしているのがわかるはずだ。
彼は、大きく口を開けて歌う、という基本姿勢をしっかりと幼少期に叩き込まれていると感じる。
その基本姿勢が、今もなお、彼のテクニックの根底にあることがわかる一曲である。
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