この曲もBS -TBSで放送された「氷川きよし20周年記念特番」を送って下さったファンの方のおかげで聴くことが出来た。

「櫻」は昨年行われた20周年記念コンサートでの記憶に残る曲だったが、今回の番組でもこの曲は印象に残った。

彼自身が話すように、氷川きよしの歌と言えば、前向きで明るい曲が多い。いわゆる演歌のドロドロとした悲哀感や悲壮感からは遠い印象がある。しかし、この曲は、そんなイメージを打ち破り、歌手としての殻を拡げることになったと司会者の徳光和夫氏が話した通り、彼の歌唱力の幅広さを十分認知させる曲である。

なかにし礼が作詞、平尾昌晃が作曲した「櫻」は「私が死んだら櫻になるわ」と日頃話していた所属事務所の会長夫人が亡くなったのをきっかけに亡き妻を思って作られた曲とのこと。発表されるまでに数年の歳月を要し、発売した年に会長も亡くなるというめぐりあわせと共にレコード大賞の作詞大賞を受賞している。

「櫻」は歌謡曲の王道を行く作品でもある。

冒頭から中盤にかけては彼の低音域から中音域の歌声で構成されている。

「最初から氷川きよしの歌声を思い浮かべてメロディーを作った」と平尾昌晃氏が話すように彼の中・低音域の張りのあるストレートボイスが綺麗に響く作りになっている。

「私が死んだら桜になるわ」の歌詞と共に何度も繰り返されるサビのフレーズは、非常に耳に馴染みやすく中毒性のあるメロディーラインで、誰もが簡単に口ずさめる。この曲を知らない人でも、この部分のフレーズだけはどこか記憶にあるのではないかと思えるほど、耳に馴染みやすいメロディーだ。

 

氷川きよしの曲は、誰もが馴染みやすい、わかりやすいメロディーラインの曲が多い。

この曲もそんな一つに入るかもしれない。しかし、淡々としたメロディーに乗せられた歌詞の言葉の一つ一つは、亡き妻への深い愛情が書き込まれており、その言葉を丁寧に彼は紡ぐ。

 

「櫻」は、それまでの氷川きよしの明るいイメージを打ち破り、大人の完成された愛の世界を切々と歌い綴ったもので、彼の歌手としての表現力の高さを示した一曲と言える。

演歌歌手氷川きよしがその後、ジャンルに捉われない歌い手としての歩みを始めることを示唆している曲でもある。