この曲は、彼が、一年半の活動休止を経ての復帰第1作。

EXILEのメインヴォーカルとして15年間、グループを牽引し続けてきた彼は、年に一作のアルバムをコンスタントに出し続けツアーを開催してきた。

その声帯も音楽人としての情熱も疲弊しきっていたに違いない。

15年の時点で活動を休止したことが歌手生命を結果的に伸ばすことに繋がっている事は間違いない。

 

2015年の活動休止前の彼の歌声は、明らかに声帯の疲労が蓄積され、ハスキーで艶のない声と不安定な音程をテクニックで誤魔化して歌う状況になっていたと言える。

 

彼自身が話すように、すべてが疲弊しきって、摩耗、消耗していた状況だった。

歌い続けることで、彼の声帯は、伸びきったゴムのように弾力性を失い固くなっていった。また精神的にも音楽から逃げ出したいと思うほど疲弊しきっていた。

一時は引退まで考えたと言うほど追い込まれた彼が、一年半の休養の間に取り戻したものは、声帯だけではなく歌手としての情熱だっただろう。

 

復帰後の曲、「Just The Way You Are」は、明るく軽快な色調の楽曲だ。

世界を代表するアーティスト、Bruno Marsのカバー曲。

曲を聴く限り、彼の声の状態は完全に戻ったと言える。

彼の歌声の特徴である明るい色調が戻り、高音の伸びも戻っている。

ハスキーさも、通常の範囲内であり声帯の疲れは感じさせない。中音域の色艶もいい。

 

長年の疲労によって蓄積されたものはポリーブや結節になる原因になりがちだが、

彼の場合は、元々の発声に無理がなく、声帯への負担が疲労によるものだけだったことが

機能的な障害にならなかった理由であり、本当に歌手として幸いなことだったと言える。

 

この時点(15年目)での活動休止が意味する事は決して小さくない。

人気グループを牽引してきた歌手が活動を休止するという決断は、非常な困難と大きな決断を必要とする。

しかし人生は長い。

長く歌い続ける為には、常に歌手は自分自身の状態を自分で管理することが求められる。

音楽というクリエイティブな世界で長く活動していくためには、時には休養という充電期は必要な要素だ。

何かに追われ、ゆとりのない精神状態では、決していい音楽も歌も生まれない。

 

自分を追い詰めていい音楽を生み出すことと、何かに追われて摩耗しきった精神状態で追い込まれることとは全く別問題だからだ。

 

この休止の経験が彼にソロへの決意を固めさせたと感じる。

 

グループ歌手からソロへの転向は、歌手として当たり前の欲求だと感じる。

なぜならグループでは音楽に制約が出るからだ。

 

結局、人は自由に歌いたい。

自由に歌える環境を求め、さらに自由に自分の音楽を表現したいという欲求を止めることは出来ない。

 

それが歌手の自然な欲求なのではないかと感じる。

 

グループ歌手からソロに転じる歌手は少なくない。

 

 

歌手ATSUSHIの新たな第二章が始まる。