今月末に発売されるカバーアルバム「Love Covers II」の中から「for you」が先行配信された。
この曲は彼がレギュラー出演しているNHKラジオ番組の中で先月公開されたものだが、正式に配信されたのを機にじっくり聴き直してみた。
今回は歌声にフォーカスしてみる。
冒頭のフレーズはエフェクトされた歌声だ。
ブレスを意識的に混ぜ込むこととエコー的なエフェクトを加えることで、吐息のような歌声を演出している。
ただこの歌声が今までと大きく異なるのは、彼自身の歌声はブレス音を混ぜ込んだものではないということ。
今まではブレス音を混ぜ込んだウィスパーボイスを使ってこのようなフレーズを処理してきたと思われるが、彼の歌声の響きはハスキーで声帯のくっつきが悪いのを感じさせるものが多かった。しかし、冒頭の歌声は、そのようなウィスパーボイスになっていない。綺麗な響きを残したまま、エフェクト加工したものであるのを感じさせる。
全体の歌声の特徴としては、今までの歌声よりも響きのポジションが上に当たっており、どの音域も綺麗に鼻腔に当たっている。また非常に伸びがいいのが特徴だ。
サビの部分のロングトーンは、ストレートボイスではなく、綺麗なビブラートの響きを持ったまま、真っ直ぐに伸びていく。
久しぶりにこういう伸びやかな彼の歌声を聴いたような気がする。
この楽曲の歌声には、ハスキーの文字は全くなく、歌声に関しては、この曲もいう事がない。
たとえば、サビの直前のフレーズ「離さない、失くさない、きっと」の「きっと」のロングトーンの伸びなどは余分な力が抜けて綺麗に空間に声の波形が伸びていく。
この曲の歌声を聴く限り、今年冒頭のファンミの歌声までとは全く違う歌声になっていると言える。
それは、サビの最後のフレーズ「……すべてが欲しい」の「欲しい」のロングトーンの伸び方にも顕著だ。
「別の人の彼女になったよ」とこの曲を聴く限り、彼の歌声は東方神起時代の歌声の伸びを取り戻した上で、円熟した響きの歌声になっていると言える。
即ち、2年前に日本で再始動した時からの歌声とは全く違う声になった印象を持つ。
本来の伸びを取り戻し、高音部も綺麗に弧を描いて、ロングトーンが響いていく。また中・低音域ではどこにも力が入らず、自然体での歌声だ。
このような高音部を取り戻せば、いっときの突き上げるような歌い方はしなくても十分に声帯が反応して高音部を歌う事が出来る。
すっかり別人の歌声になった。
そんな気がした。
これは一つは声帯の状態が非常にいいということを感じる。
今までの彼のレコーディングでありがちだった時間的にタイトな中で多くのスケジュールをこなし、その隙間時間に録音するというような綱渡り的な録音作業ではなく、十分、音楽に向き合い、レコーディングに集中できる環境が皮肉にもコロナによってもたらされた、ということなのかもしれない。
また今回、正式に配信されたこの曲を聴き直すと、彼が今までの主観的な立場の歌から、客観的な立場の歌へと移行し始めているのを感じる。
それはサビの部分の歌い方に顕著に現れている。
今までの彼の歌なら、サビの切ないメロディーに気持ちが高揚し、主人公に同化して、シャウトした破綻気味の歌声で歌い飛ばしていただろう。これは「Sign」や「Defiance」また「Forget-me-not」などのサビの部分に現れている歌い方で、彼の最も得意とする歌い方の一つと言える。
しかし、今回のこの曲において、正式に配信されたものの歌声を注意深く聴きなおすと、彼の歌声が今までのそれらとは全く異なり、非常に冷静で注意深くコントロールされたものであることを感じるのだ。
これは今までの主観的で主人公の気持ちと同化しやすく、魂を込めて歌う歌よりも、ずっと切々と心に迫ってくる。距離がある分、非常に冷静で安定した音楽と歌声が提供され、「大人の歌」であることを感じさせるのだ。
これが今回のアルバムで彼が大きく成長したと感じさせる部分だ。
これは、声の状態が非常に良く、自分の思い通りに声帯が反応するために、安定的な歌声が客観的な距離感を楽曲と自分との間に作り上げ、冷静に歌う余裕を彼に与えている、という気がする。
それゆえ、歌手として、彼が次のステージへ上がったと感じさせるものになっている。
おそらく今回のアルバムの他の収録曲も同じような距離感や冷静さ、客観的要素を感じさせる音楽になっているのではないだろうか。これは彼が音楽に非常に集中して向き合ったことの証でもあると考える。
楽曲との距離感を手に入れた彼が、次のステージでどのような歌を披露していくのか、非常に興味深い。
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