「人生一番最悪な歌」と彼は呟いた。

「ベストアーティスト2019」に出演した彼の歌は誰の目にも明らかにいつもの彼の歌とは違っていた。

元グループアイドルからソロ歌手になり、同じように日本活動を始めたところだったク・ハラの自殺に彼がどれほど心を痛めたかは想像に難くない。
彼が「人生一番最悪な歌」と言うほど彼の歌声は荒れて憔悴しきった歌声は痛々しいほどだった。

確かに「最悪な歌」だったかもしれない。
それでも彼は歌のステージに立ち歌いきった。
韓国から戻ったその足でスタジオに入り、数時間後には歌ったのだ。

この9年の間に彼は兄とも言うべき慕った存在を亡くし、可愛がった弟とも言うべき存在を亡くし、同じように練習生時代の妹を数ヶ月前に亡くしたばかりだった。そして今また同じように日本活動を始めたばかりの後輩を亡くす。
彼の周りでどれだけの人が亡くなっていっただろう。

パク・ヨンハ氏を亡くした時は墓前で立ち上がれないほど泣きじゃくり周囲の人の涙を誘った。
「頑張って生きていく、兄と約束したから」と彼は呟いた。9年経った今でも彼は毎年欠かさず墓を訪れる。

2年前にジョンヒョンを亡くした時も彼は古巣の事務所の人間の視線に晒されながらも参列し、葬儀場で泣きじゃくっていた。

兄弟のように親しくしていた人達に先立たれ、彼は一人残された

「今日一日も元気で生きている自分に感謝します。
こんな僕を見守ってくださる皆さんにもっと素敵な歌を聞かせますように頑張って生きて行きたいと思います…」

彼は前を向いて歩いていく。

「奏」は確かに最悪だったかもしれない。
しかし短い歌の合間にも彼は何とか声を立て直そうとした。
疲労と心痛で全く反応しない声帯にブレスを当て、響きを取り戻そうとしていた。
痛々しいまでに反応しない声を振り絞るようにしながらも歌いきった。

そこに残されたものの歌手としての覚悟を見た。