年末スペシャルコンサートはコンセプトがハッキリしている。

デビュー20周年の総決算とも言えるコンサートは、前半部分が演歌主体の今までの彼の姿。後半はポップス曲の大きく2部構成になっており、歌手氷川きよしのジャンルの広さ、アーティストとしての振り幅の大きさを感じさせるものとなっている。

 

「確信」は彼がポップスとして出した新曲になる。

この曲を聴いていて思うのは、彼の歌い方が、確実に演歌とポップスの歌い分けが出来ているということ。

声の出し方、言葉の処理、リズムの揺れ、音楽の構成など、どの面を取っても、きちんと使い分けがされている。これは、彼が、「演歌」というジャンルをきちんと制覇し、彼独自の世界観を確立できているからこそ、他ジャンルに移行できることの現れでもある。

 

「確信」に使われている彼の歌声は元々の彼の持ち声であるストレートボイス。

彼が初めてポップス曲を歌ったのを聴いたのは、昨年の6月のNHK「うたコン」だったが、その頃よりも格段に進化していると思う部分が、言葉の処理だ。

この曲にも声を張り上げて歌う部分と、囁くように歌う部分があるが、この囁くように歌うフレーズの処理が格段に上達している。

以前の彼は、低音部や細かい音符進行の部分で、どうしても演歌の声の鳴りが出てしまうところがあった。そうなるとどうしても音楽の進行が重くなり、テンポに遅れていないのに、音楽がリズムのあとからやってくる、という印象が拭えなかった。

しかし、この曲において、彼はこの部分を見事に克服し、完全にリズムを先取りしている。これは、ポップスを歌う上で必要不可欠なものであり、ポップスでは如何にリズムを先取りしていけるかによって、音楽が前へ前へと進めれるかどうかが決まる。

リズムの先取りが出来ることによって、言葉の処理がスムーズになり、フレーズに余裕を持って収めることが出来ている。

以前のような一音節一音節を鳴らす歌い方ではなく、一音節を一つの塊として処理できる言語能力を身につけることで、この曲のテンポ感は非常に軽い。

またそれとは対称的に、サビの声を張り上げて歌うロングボイスのフレーズでは、伸びやかで鳴りのいい歌声が披露され、これらがコントラストとなって、曲に濃淡の色彩を与えている。

 

この曲を聴いて、誰が演歌歌手だと思うだろう。

氷川きよしは、完全にJPOPの歌手へ転身した。

演歌は彼の中の一つの引き出しであり、ジャンルに過ぎず、アーティスト氷川きよしを構成する一つの要素に過ぎなくなった。

 

氷川きよしのファンは非常に恵まれている。

なぜなら、20年という時を経て、二人の氷川きよしを知ることができるからだ。

そして2人目の氷川きよしは、どこを目指してどこまで昇っていくのかわからない。

未知数に彩られた彼のアーティスト人生は始まったばかりだ。

楽しいファン人生が待ち受けている。