wacchiの楽曲「別の人の彼女になったよ」

この曲をUruがカバーしているのをリクエストを頂き、聴いてみた。

この曲は男性歌手の曲だが、女性歌手がカバーしたのを聴いたのは鈴木愛理がカバーしているもの以来だった。

 

鈴木愛理のカバーは彼女自身が泣きながら歌っているのが印象的だったが、Uruのカバーは、ピアノの伴奏のみのアレンジで、歌い出しからオリジナルとは全く違う様相を見せる。

単音で始まるピアノの音の透明性がそのまま音楽観に現れているような一曲になっているのだ。

オリジナルの楽曲とは全く別物に仕上がっていると言ってもいいぐらい、曲の顔つきそのものが違う。

 

オリジナルの歌が、どちらかといえば、後半に向かってエネルギッシュに歌い上げていく中で、彼女の歌は、終始、訥々と言葉を丁寧に繋いでいく。

淡々と言葉を紡いでいきながら、歌って聞かせるというスタンスの音楽になっている。

 

Uruの歌声は非常に透明性が高く、線の細い中に綺麗でしっかりした芯のある響きが展開されていく。

その響きが女性の複雑な心境を現し、男性歌手の歌にはない、なんとも言えない物悲しさを奏でていく。

 

この曲は、今では別の人のものになった彼女が、実は心の中ではいつまでも自分を思っていてくれていて、本音のところでは自分のところに戻りたいと思っているのだ、という実に男性側のエゴの感情が描かれている世界だ。

女性側としては、過去の過ぎ去った男にいつまでも未練を持つことはありえない、という心理を如何に男性が理解していないかという事実を露呈したような歌で、女性陣からツッコミ満載の議論が持ち上がったほどの楽曲でもある。

 

女性は過去の恋を振り返らないが、男性はいつまでも振り返る。

女性の恋は、アップデートされていく。即ち上書きされていくが、男性の恋は、いつまでもファイルを持ち続けたまま更新されないという心理の違いをあらためて考えさせられる楽曲でもある。

女性からしてみれば、「別れた男にいつまでも未練を持ち続けるなんでありえなーい」ということなのだが、Uruの歌を聴くと、「いやいや、そういう気持ちにもなったりして」という気分になるのであるから、歌い手によってずいぶん楽曲のイメージが変わるのだということを証明していることにもなる。

 

Uruの歌声はもう数年前のYouTubeで動画配信をしていた頃から知っているが、やっとメジャーに出て来たという印象を持つ。動画配信をしていた頃に彼女のカバー曲をたくさん聴いた。

その頃の音色との違いは、相変わらずの透明性の中に、中音域から高音にかけての芯のある張りのある歌声の存在である。以前は、もっとソフトな音色をしていたような印象を持つ。

 

しかし、今回の歌声では、彼女の芯のある色彩と、無色に近い透明声の高い歌声の対比によって、非常に魅力的な歌の世界を提示して来ている。

この曲は、彼女の最新アルバムに入っているのだが、他の曲もちょっと聴きたくなるほど、魅力的だった。

 

彼女の声の透明性によって、楽曲のピュアな面が引き立った一曲である。