今回、この配信を観た時、正直、ジェジュンという歌手の抱える問題点が浮き彫りになったと感じた。

それは2つの国で仕事をすることの難しさだ。

 

 

彼は2年前に日本活動を再開させた。

日本では歌手活動をするために仕事を再開させたと言っても過言ではない。

しかし、実際の仕事の内容は歌手活動だけに限らず、タレント活動もかなりの頻度で行っているのが1年目だったと言える。そして2年目の昨年は、前半は日本活動、後半は韓国での活動という風に半分半分の比重で予定されていた。

しかし実際には韓国での活動は殆ど目立ったものはなく、年末には日本での音楽番組の仕事が目白押しという活動になった。

その流れのままで今年初めもバースデーファンミを兼ねたコンサートを韓国で二度開いただけですぐに日本での歌手活動に入っている。そして春のコロナ騒動からの自粛生活だった。

 

こうやって考えると韓国では全くと言っていいほど、彼が歌手活動を行っていないことがわかる。

10年が経った今でも放送関係への出演は歌手としては出来ない。即ち、音楽番組への出演は叶わない。

それは、法律を施行しても業界の慣例は変えることが出来なかったということを意味している。

おそらく今後もその慣例が大きく変わることはないだろうと思われる。

即ち、彼がCDを定期的に出し、コンサートツアーを行い、音楽番組に出演するという歌手として普通の活動が出来る場所は日本しかない、ということを現している。

 

コロナ自粛のこの半年間でも日本では僅かながらもリモートなどを使って、この夏も特番はいくつも組まれていたし、最近でも大きな音楽の特番が2つあったばかりだ。

もし、彼が日本にい続けていたなら、当然、それらの番組のいくつかには出演していたに違いないだろう。

しかし、彼は日本にいなかった。

そして韓国では彼は歌える環境にない。

そうやって半年過ごした歌手の歌声がどのようになるのかを、今夜のライブでは如実に現していたと私は感じる。

 

 

今回のライブ配信は、当初発表された日程より1週間遅れた。

彼の帰国が遅れ、自宅での隔離期間の日程がズレたことに原因がある。

そんな状況下の元では、これが精一杯だったのだろう。

 

半年、ほぼ歌から離れれば、どんな歌手でも歌声は落ちる。

ましてやジェジュンという歌手は、どちらかと言えばスロースターターである。

普段のライブでも後半に身体が温まって来るに従って、歌声も伸びのあるいい声になっていく。どうしてもスロースターターの歌手は、スタートダッシュが苦手だ。

今回のライブでもそれは顕著に感じられた。

 

始まりの二曲は全くと言っていいほど、声帯の反応が悪かった。

即ち、声が喉に貼り付いて前に飛ばないのだ。

身体に声がまとわりついて、空間を飛んでいかない。

そうなるとどんなにブレスを送っても、声は伸びない。

そういう状態になっていた。

 

声の状態が少し戻ったと感じたのは、「悲しい色やね」

この曲はアルバムよりもダイナミックに歌っていた。

しっかり歌うことで声の状態を彼自身が確かめていたように感じる。

また少し反応が戻ってきたのを確信したことで、ロングトーンを十二分に伸ばすことでブレスを放り上げる歌い方になっていたのが、アルバムの歌との違いだった。

 

そして意外にアルバムよりも良かったのは、「セカンド・ラブ」だった。

これはこの楽曲の音域が彼の中音域のチェストボイスの音域に近いこともあり、一番安定した響きを見せた。

アルバムの歌声よりも伸びがあり、綺麗に響いていたのは、彼の声帯の反応がこの音域だけ良かったことを現している。

そのほかの歌に関しては、全体に音域を下げて歌ったことからも、彼の声の状態がよくないことを示す形となった。

 

 

今回の配信に私は他の歌手と同じように、最初から最後までライブ形式で歌い続けるものを想像していた。

しかし、実際に配信されたものは、ライブ配信というよりは、TV局のスタジオで歌っている音楽番組の中継を見せられているような感覚に近かった。

 

3週間前に日本に戻ったと言っても、2週間の隔離期間中は、殆ど歌えなかっただろう彼にすれば、この形が精一杯だったかもしれない。

配信の日程をズラし、ツアーを延期したのは賢明な判断だった。

このままツアーを行えば、またやっつけ感のあるものとなる可能性は否めない。

また二曲以上、連続で歌わなかったことも、多くの出演者を使ってトークで繋げたのも、彼自身が連続で歌うことへの不安感を示しているように感じられた。

半年、ほぼ歌わなければ、どんな歌手でも歌うことが不安になる。

 

配信後、彼はTwitterで、「こうやって声を届けられることだけで胸がいっぱいです」と呟いたが、「歌える」ということがどんなに有り難いことなのかということを彼ほど身をもって感じている歌手は他にいないのではないだろうか。

 

2つの国を行き来する中で、どのように自分のコンディションを保っていくのか、それが出来ないなら、どちらかの国に腰を据えて活動するという決断にそろそろ腹を括る時期が来ているように思う。

このことから逃げることは、歌手として、アーティストとしての進化を阻む要因になりかねない。

 

歌手は歌い続けなければ、どんなに才能があってもダメになる。

声は痩せて、声帯の反応は悪くなり、筋肉が衰える。

スポーツ選手と同じで、競技し続けなければ、練習し続けなけれな、どんなに一流の人間でもダメになる。

これは歌手の宿命だ。

 

彼が歌手として大きく成長を遂げるためには、2つの国で活動すること、特に母国である韓国で歌手活動が出来ないという事実から目を逸らさず、自分の歌手生命にとってベストな選択をする必要がある。

 

彼が今後、どのような形でその問題を処理していくのか、非常に興味深い。

彼の選択そのものが、歌手ジェジュンの命運を握る。

 

※楽曲の個々のレビューと歌声に関しては、構成と共に別記事として書かせて頂きます。