女王蜂のボーカル、アヴのファーストテイクだ。

この人の歌声を聴いていると、性別も声域も超越して、声帯という人間の持つ楽器の素晴らしさに圧倒される。

5オクターブ以上あると言われる音域は、確かに彼の歌声を聴けば可能だ。

彼のいわゆる地声の部分は、非常に太い歌声である。幅のある混濁した響きで、透明感はない。

それが高音部になるとハイトーンの細い歌声に変換される。

特に最高音部に近づくにつれて、声帯が細く一枚一枚、声帯のひだがめくれていくように声が変換されていく。

歌声というよりは、どちらかと言えば弦楽器に近い音色になる。

中音域は少し鼻にかかった濃厚で様々な音色を見せる。

 

この人の声が各音域で様々な色彩を見せるのは、声域のボイスチェンジだけでなく、声を当てる場所そのものを変えることで様々な色彩を見せる。

例えば、ソフトで濃厚で優しい中音域の音の場合は、声は奥の部分に当てられている。

それに対して金管楽器的な音色の歌声の時には、顔の前面に声が当てられている。

この変換が非常にスムーズに行われているということで、彼は自分の声帯も身体も完全に自分の思う通りに動かせることが出来るという証明でもある。

即ち、彼は自分の声帯も肉体も完全に自分で把握しきって、自由に出来るということなのだろう。

 

The First Takeは、歌手の歌声を丸裸にする。

そこには何の誤魔化しもマヤカシも通じない。

これは、現代のデジタル音楽へのある意味反抗的な挑戦であり、彼が話したように、歌手にとっては貴重な機会であり、歌手としての自分への挑戦でもある。

 

この試みに挑戦する歌手が増えればいいと思った。

歌手は、「歌ってナンボ」の仕事だ。

そこにはマヤカシも継ぎ足しも必要ない。

昔のように一発勝負の世界だ。

どんなにデジタル化しても歌手がその根本を失わないことを願う。