高橋真梨子の「for you」

3つの音源を聴いた。

 

1994年の歌唱。

2004年の歌唱。

2013年の歌唱。

 

「for You」は、1982年発売の曲だ。YouTubeで捜してみたが、一番古い動画は1994年のものだった。

その後、10年後ごとの動画を見つけて聴いた。

 

聴くとわかるのだが、彼女のキーポジションは変わらない。この曲が発表された1982年当時のキーポジションで2017年の紅白も歌っていた。実に35年間、変わらないのである。

それだけでも見事だと言える。

そして、この曲には、彼女の言葉の魔法使いともいうべき言葉の処理によって、声の音色が変わるという特性を余すことなく発揮している。

 

この曲は語りの部分とサビの歌い上げる部分とに大きく分かれると思うが、見事なのは語りの部分の音色だ。

非常に丁寧に透明感溢れる声で歌っている。そして非常に歌詞が明確だ。

 

語りの部分の音節のメロディーは、すべて低音で締めくくられる作りになっている。即ち上向きのメロディーから下がって納まるように作られている。

この語尾の言葉の処理と声のコントロールが彼女は見事なのだ。

語りの部分の透明性高い音色と言葉の処理が、その後に続くサビの部分の張り上げる力強い歌声と対比されて見事なコントラストをこの曲に作り上げている。

 

 

歌は、サビの部分よりもサビに繋ぐその前の部分が難しいと言われる。

力強い歌声で歌うサビの部分は誰でも歌いやすいように作られている。とくに彼女のように声量のある歌手なら難なく歌いこなせる。

それよりもサビに入るまでの導入部。即ち語りの部分を如何に処理するかにこの曲はかかっていると言える。

語りの部分を彼女は非常に無色透明の綺麗な歌声、かつ、明朗な発音の日本語で歌っている。その部分が優しく聴衆の耳に響くから、その後の感情の昂りに伴うサビの部分の歌声が引き立つのである。

 

 

高橋真梨子の上手さは声量溢れた少しハスキーな歌声よりも語り口の上手さにある。

この色の使い分けが彼女の歌声の最大の魅力と言える。

 

 

年齢を重ねると共にハスキー気味になる歌声とは別に言葉の処理は全く変わらない。

これが彼女の歌の上手さの持ち味だ。

 

そして絶対にキーポジションを下げない。

若い頃に比べれば確かに高音の伸びは欠けるだろう。しかし、それでも決してキーポジションを下げず果敢に歌手としての限界に挑んでいく。

 

それが彼女の歌手としての誇りのように感じた。