画面には、ステージの中心に三浦大知がそれほど大きくなく映っている。

背景にはバックモニターが左右に一台ずつ。

彼が一人で歌い踊る。

やがてダンサーが画面の端に登場する。

そうなってもカメラのアングルは変わらない。

彼の表情もダンサーの息遣いもわからない。

ただ映し出されるのは彼の全体像とダンサーだけ。

それでも十分に彼の息遣いも表情も伝わってきた。

彼は全身でそれらを表現するからだ。

そして私はライブを思い出した。

彼のライブ。

間違いなく私はホールの客席にいた。

 

 

 

彼が一度やりたかった、という彼の要望による定点カメラの撮影。

定点カメラというのは、カメラの場所を固定して一点から撮影する手法だ。

アップもアングルの切り替えも一切ない。ステージ全体が視界に入るアングルで撮影されている。

彼がそれを望んだ理由は、「ライブと同じ」「ライブ感を味わって欲しい」

 

彼は1月31日からホールツアーを開催していたが、コロナウイルスによる政府の自粛要請を受けて2月後半以降のライブを次々中止している最中である。中止に伴い、彼はライブ予定当日にインスタライブで歌を配信する企画を続けている。

そんな中で出演した音楽番組。

ホールを使っての番組の構成にファンや視聴者にライブ感覚を味わって欲しい、という強い思いを感じるものだった。

 

定点撮影での視界は客席からの視界と同じになる。

ライブではカメラの切り替えもアップもない。

ただバックモニターの画面に映るものだけになる。

 

自分の客席から見える視界。それが全てだ。

そういうアングルで撮られた映像の中で彼はパフォーマンスをした。

歌もダンスも申し分ない。

「TVの前の皆さんも一緒に!!」

彼は見えない聴衆に呼びかける。

これが彼のスタンスだ。

 

「中止ではなく延期にして欲しい」とスタッフに頼んだが会場の関係でやむなく中止に追い込まれた多くのライブ。

この後もいつライブができるか想像もつかない。

 

 

今、多くの歌手が歌う場所を奪われている中、TVの番組に出演出来ることほど恵まれたものはない。

その責任を彼は十分自覚している。

そう思った。