今回、この記事を書くに当たって、ファンの方から、三浦さんが筋肉と発声についてのコメントを教えて頂き、長年、ボイストレーナーとして仕事してきた経験と知識を生かして、彼の発言の内容を検証してみましたが、医学的専門知識が十分とは言えず、又、文章に誤解を招くような部分があったかもしれません。

理学療法士のHさんのメッセージにもあるように、三浦さんを実際に触診などされた上での検証ではなく、あくまでも三浦さんの発言からの一つの見解を示したものであり、これが必ず正しいというものでもありません。

おそらくこの記事とは別の見解を持たれる方も多くいらっしゃると思いますし、それを否定するものでもありません。

そのことを十分ご理解の上で、記事をお読み頂けると嬉しく思います。

よろしくお願いします。

 

耒仁子

 

 

 

記事の中の追記、変更部分は赤字で示しています。

最後に、三浦大知のファンで理学療法士Hさんから頂いた記事に対する補足コメントを追記という形で記載させて頂きました。

非常に専門性が高く、丁寧、かつ詳細に説明して下さっています。特に例として挙げられている「COPDのような慢性呼吸器疾患」についての説明部分では、より具体的に説明されていますので一層理解して頂きやすいのではないかと思います。

 

 

三浦大知のインタビューの中に「腕の筋肉を鍛えたら高音が伸びなくなった」という発言があるのをファンの人から教えられて、ちょっと調べてみた。そうすると以下のような記事が出てきた。

三浦大知の謎。歌声と筋肉の関係性

彼に日頃のトレーニング内容を尋ねているのだが、そこで彼は「腕の筋肉は声帯に繋がっていて、腕や足の筋肉が重くなると歌がよくなくなる」と答えている。「だから外側の筋肉を鍛えるのではなく、体幹を鍛えるようにしている」という話なのである。

ファンの人が教えてくれたインタビュー記事では、「トレーニングマシンで腕の筋肉を鍛えたら、肩甲骨から二の腕にかけた筋肉が重くなり、高音が伸びなくなった。トレーニングをやめると元に戻った」と話している。

それで腕の筋肉と声帯の関係性について調べてみた。

 

先ず、声帯の位置を確認してみると下記の図のようになる。

 

 

腕の筋肉と言えば、この部分の筋肉になる。

 

 

これらの筋肉は上腕骨に付随しており、上腕骨は鎖骨、肩甲骨とセットになっている。

 

また上腕骨には、大胸筋(胸の筋肉)、三角筋(肩の筋肉)、広背筋(背中の筋肉)の3つの筋肉が付いている。

 

このように3つの筋肉が上腕骨に繋がっている。

その他にも烏口腕筋、大円筋肩関節を安定させる4つの筋肉、小円筋・棘上筋・棘下筋・肩甲下筋などが周囲にある。

上腕部の筋を鍛えることにより、周辺の筋の緊張が高まり、大胸筋を含む肩甲骨周囲筋が硬くなり、結果として肩甲骨の動きが悪くなる。

肩甲骨は横隔膜と連動している為、肩甲骨の動きが悪くなるということは横隔膜の動きも悪くなり、呼吸が深い場所まで入らない、という状態になると思われる。

 

深いブレスが出来ないということは、浅いポジションでのブレスになり、呼吸筋が使えていない状態になる。

そうなると声帯に深い場所からの呼吸が当らず、空気の流れが悪くなる。

空気の流れが悪くなると必然的に声帯の伸縮が悪くなり、結果として高音の伸びが悪くなるという状態になる。

三浦大知の場合、ダンスを踊りながら歌うということは、横隔膜を使った深い場所でのブレスを多用しているに違いなく、深いブレスが取れないと高音が出ない、という状態になったのだと推測する。

 

彼はインタビューの中で、

「今のボイストレーナーの方や、いろんなところから話を聞くと、腕の筋肉と足の筋肉がついて重くなったり緊張し始めると、歌がよくなくなってくる、っていう。自分の中にもその感覚があって。なので、自分のイメージでは、体の外側はすっごく柔らかくて、内側が芯がしっかりしているような体になりたいなっていうのがあるので、基本的には体幹トレーニングとかしかしないですね。腕立てとか腹筋とかも、たまにはしますけど、極力あんまりつけないというか、重くならないようにしてますね。」

「声帯と腕の筋肉の一部ってつながってるらしいんですよね。だから腕とか疲れていると高音が伸びにくかったり。なので、あんまり(固い筋肉をつけ過ぎるのは)よくないなって思って。ダンスのスタイル的にもパワーっていうより、どっちかというと、緩急というか、流れる中での自分のドラマ性を大切にしているスタイルなので、あまり筋肉を固くしないようにしてますね。」

と発言している。

彼は筋肉の外側は柔らかいまま、内部の筋肉を鍛える、即ち、体幹を鍛えるようになったと答えている。

三浦大知のバランスの良いダンスと歌声は、このようにバランスの良い筋肉の付け方と使い方によって、伸びやかな歌声が出ていると考えられる。

 

 

これは彼だけに限った話ではなく、歌手全般誰にでも言えることであり、筋肉の鍛え方を間違えると歌声に影響が出る可能性は否定出来ない。

一概に上腕筋を鍛えたとしても、それがどの程度、影響を及ぼすものなのかも個人差は当然あると思うが、筋肉がしっかりつくということは、必ずしも歌手にとって良いことになるとは限らない、ということの一例と考えられる。

 

特に身体をしっかり使って歌うタイプの歌手の場合、身体の筋肉の状態は歌声に影響を及ぼしかねない。

それは上記のようなメカニズムによって発声されるからであり、身体の状態によって歌声が変わるというのも、「歌」が声帯という身体に付随した楽器を使っているからに他ならない。

 

これが他の楽器の演奏と「歌」との大きな違いである。

「声」というものを使って歌っている限り、身体の変化と共に「歌声」も変化する。

 

これが「歌声」の原則と言えるものである。

 

 

 

追記

理学療法士Hさんからの補足コメントを掲載させて頂きます。

 

【肩関節が動きにくくなるということは、そこに繋がっている大胸筋が硬くなって開かない。また肩が開かないと肩甲骨周囲の動きが悪くなる】
というクニコさんの見解に対しては一部同意見です。
大胸筋は上腕骨頭の内旋(内側に捻る)に作用するため、何らかが原因で大胸筋の緊張が高まる(硬くなる)と相対的に肩甲骨が外転します。簡単に言うと全体的にすくみ肩になり肩甲骨が脊柱から離れてしまいます。これは高齢者の円背や側弯症の方にもよく見受けられますが、結果、肩関節可動域制限の要因になる場合もあります。三浦大知さんの『上腕の筋肉を鍛えたら声が出にくくなった(伸びなくなった)』という発言ですが、恐らく三浦大知さんは肩関節周囲筋(三角筋、上腕二頭筋、大胸筋など)のアウターマッスルを中心にトレーニングされたと思われます。しかし、声が出にくくなったのはそのアウターマッスル(パワーを発揮する筋肉)自体が原因ではないと推測します。私の予想ですが、肩関節周囲筋に過負荷をかけトレーニングしたことで、僧帽筋上部線維、大胸筋、更には広背筋群の緊張を高めてしまったと思われます。
上記の筋の緊張が高まると…上腕骨内旋、肩甲骨挙上&肩甲骨外転位になりやすい。
僧帽筋上部線維、大胸筋の筋緊張が持続し、上腕骨と肩甲骨が長期に渡りそのアライメントが継続すると、肋骨下制の動きを制限してしまいます。

つまり、肩甲骨と肋骨の動きが制限されることにより、胸郭全体の動きにも影響を及ぼすことに繋がります。
肺は肋骨という鳥かごのような骨に納められた臓器で、吸気で膨らみ、呼気で縮みます。つまり肺の動きと連動して肋骨は挙上したり下制したりします。
COPDのような慢性呼吸器疾患の患者様の治療においても、やはり僧帽筋上部線維、大胸筋の過緊張が特有です。結果、頚部の動き(側屈、回旋)の制限、肩甲骨挙上&外転が著しいです。そのような症例ではいわゆるすくみ肩での呼吸が著明です。それ故、呼気時において肩甲骨と肋骨の下制が不足し、浅い呼気となります(長くフゥーーと息を吐けない状態)。呼気が浅い=短縮すると新しい酸素が肺に入りませんので呼吸苦が生じます。
COPDの患者様の多くは呼気が浅く、発声も短くなります。

クニコさんがおっしゃる
【肩甲骨は横隔膜と連動しており、肩甲骨の動きが悪くなるということは横隔膜の動きも悪くなり、呼吸が深い場所まで入らない、という状態になる。深いブレスが出来ないということは、浅いポジションでのブレスになり、呼吸筋が使えていない状態になる。
そうなると声帯に深い場所からの呼吸が当らず、空気の流れが悪くなる。空気の流れが悪くなると必然的に声帯の伸縮が悪くなり、結果として高音の伸びが悪くなるという状態になる。】を紐解いていくと、上記で述べた私の見解に続く内容に当たるものと考えました。
COPDの症例については極端な例ではありますが、『筋緊張による肩甲骨や肋骨の動きを制限し、呼吸や発声にまで影響してしまう』という点では分かりやすい例だと思い、紹介させて頂きました。

長文になりましたが、上腕部の筋力トレーニング(筋力肥大)が直接的に発声に影響したのではなく、トレーニングに伴い、引き起こしてしまった頚部~肩甲骨周囲筋の過緊張が肩甲骨・肋骨といった胸郭全体の動きを制限し、その結果、発声に影響を及ぼしたのではないか?というのが私なりの考察になります。

しかし、実際に当時の三浦大知さんの筋の触診や身体的アライメントの評価、治療、検証作業を行ったわけではなく、あくまで推測となります。一理学療法士としての考察となりますことをご理解頂ければと思います。

 

理学療法士H