ミュージカル「美女と野獣」を生田絵梨花とのデュエットで歌ったのを聴いた。先日のFNSの城田優とのコラボよりもさらに伸びと響きを取り戻していると思った。

生田絵梨花のストレートな歌声に対し、きちんと存在感を示す歌声になっていたからだ。

 

生田絵梨花はずいぶん上手くなったという印象を持つ。

これまでも何度かFNS歌謡祭などで彼女のソロやデュエット曲を聴いたが、どこか彼女の歌声にしっくり来ないものを感じていた。それはミュージカルの出演回数が多いにも関わらず、歌声がミュージカルというよりはアイドル路線が抜けきらない発声の印象を拭えなかったからかもしれない。

彼女のようなストレートボイスは概して一本調子になりやすい。特に彼女の歌声にはビブラートの響きが全くない。その為、余程うまく表現しなければ幼い印象の歌声になってしまう。

私が彼女の歌を何度聴いても幼さと一本調子を感じたのも、楽譜通りの忠実な歌い方の中に彼女のオリジナルティーを感じなかったからかもしれない。よく言えば素直、悪く言えば個性に欠ける歌という印象だった。

しかし、今回のこの歌では歌い出しから彼女の歌声の印象はそれまでと全く違った。

非常に抑えた低音域の始まりの中に今までとは違う充実した響きを感じたからだ。さらに彼女の歌声にはいくつもの色が加わって一本調子な素直な歌声から、成熟した女性の歌声へと変化しているのを感じた。それはミュージカルの舞台の経験を積む中での成熟度のような気がした。

 

一方、ジェジュンの歌声は伸びと透明度が戻りつつある。それは昨年までの突き上げるような高音部の出し方とは明らかに歌い方が違っているからだ。

高音部が突き上げるような歌い方になる原因の一つに発声ポジションがある。

昨年までの彼の発声ポジションは明らかに低く喉に落ちてしまっていた。その原因はいくつかあるが、主に日本語を歌うということに起因している。昨年までは、中・低音域で既に喉に落ちているポジションのまま高音部を歌おうとする為にどうしても高音域で苦しくなり、突き上げるような歌い方になっていた。それが確実にここのところ改善されてきている。

今回の歌においても、彼が上唇から鼻腔にかけてのポジションに響きを当てようとする明らかな意思を感じることが出来る。その為、生田絵梨花との掛け合いの部分でも、冒頭の部分からきちんと安定した響きが存在していた。

 

曲の後半、生田絵梨花が高音になっていくに従って、ピンと張った鳴りのいいストレートな歌声だったのに対し、ジェジュンの歌声はあくまでも顔の前面に響きを当てる歌声のポジションを崩していない。昨年までの彼なら、サビのクライマックスに従って必ず力で押したような歌声になっていた。だが今回は、エネルギッシュに歌う部分に於いても非常に慎重に響きを前に当てに来ているのがわかる。そうやってブレスの流れによって前へ前へと押し出された歌声は、短いセンテンスの中にも綺麗な響きがかき消されることなく、しっかりと存在している。

 

生田絵梨花がメロディーの上を取り、そのラインに寄り添うようにジェジュンのソフトで濃い色味の歌声が加味され、綺麗なハーモニーが出来上がっていた。

声の質が全く違うタイプの二人でありながら、二つの声が乖離しなかったのは、お互いの歌い方がしっかりと響きを持つものだったからに他ならない。またお互いがお互いの音をよく聴いている証拠でもある。

そこはミュージカルの経験の豊富な彼女と、ボーカルグループの中でハーモニーを作ってきたジェジュンのお互いの経験値が生かされている。

 

ジェジュンのメロディーラインを耳で追ってみるとわかるが、音の高低が頻繁に繰り返され、非常に歌いにくい音程になっている。これは綺麗なハーモニーを作る為にハモる側にありがちなメロディーラインだが、そこを彼はうまく処理しながら決して上ずることなく正確に歌っていたのはさすがに昔アカペラでハーモニーを作ることを鍛えられた証拠でもある。

 

サビのクライマックスでの彼の歌声を聴くと高音部がさらに伸びを取り戻していることに気づくだろう。

彼の声は発声ポジションの修正によって、声の状態が確実に良くなっている。

それはソロで歌った「BRAVA!! ✖️3」でさらに感じることが出来る。

彼がこのまましっかりポジションを修正してくれば、昔のような伸びと透明性のある歌声を取り戻すに違いない。

それはある意味、今後の彼の自覚にかかっていると言えるかもしれない。

それぐらい、発声ポジションの修正は大切なことだとも言える。

 

いずれにしても、彼の歌声の変化がどのようになっていくのかによって、彼の今後の歌手活動を占うことが出来る。