中西保志の「最後の雨」は、1992年にリリースされた中西保志の2枚目のシングル曲で、多くの歌手がカバーしている。

5人の男女の歌手の歌唱を検証してみた。

 

 

★先ずオリジナルの中西保志の歌唱。

 

この曲は、非常に切なく甘いメロディーが展開される。中西保志の代表曲であり、多くの歌手が好んで歌っている。

これは、中音域を中心としたメロディー展開で、多くの歌手にとって安定した音域で歌いやすい。

中西保志の歌唱は、1992年と2007年度のものでは、若干異なるが、ほとんど変わらない。

どちらかと言えば、やはり若い頃の1992年度のものは、情熱的に歌いこんでいるのが感じられる。それに比べると、2007年度の方は、あっさりと客観的に歌っているように感じる。

それは、中西が、すっかりこの曲を自分の身体に取り込むほど同化させているようにも見える。それゆえ、サビの部分でも情熱的になりすぎず、サラっとした感覚で軽く歌っている。

中西の歌声は、明るく、透明で少しハスキーだ。安定した中音域とそれに続くサビの部分の高音部もヴォイスチェンジは感じられない。中音域は高音域に比べて若干の甘い響きを持つ。また、全体的な声の響きは太い。

1992年の歌唱では、とくにその太さをあえて使って、表現している部分がある。語尾の歌いきりの部分などにそれは現される。

いずれにしても、この時代を代表する楽曲であり、30年近く経った今でもなお、多くの人の心の琴線に触れる曲であることは確かと言える。

 

 

 

★EXILEのATSUSHIの歌唱。

 

彼の場合、オリジナルの歌声よりも本来持つキーポジションが高い。

そのせいなのか、曲全体に明るさと軽快さが増した。

休養前の歌唱の為に、彼の歌声は、正直言って、響きが薄く、彼本来の響きはない。ハスキーで声の色みがない。

ただ、その声の調子が悪いだけであって、彼のこの曲への解釈には何の影響も与えない。

 

彼は、この曲を正面から正攻法で捉えて歌っている。

即ち、メロディーの展開によって、サビの部分に向かって、甘く切なく展開されるフレーズを、観客の期待するように、エネルギッシュに歌う。

高揚するメロディーは、彼の歌声によって、さらに聴衆の琴線に触れ、甘く切ない世界に連れていくのである。

休養後の彼の歌声でこの曲を歌ったならば、もっと艷やかな響きが展開されるだろう。

 

★ユン・サンヒョンの歌唱。

 

韓国の俳優というサンヒョンの歌唱は初めて聴いた。

日本の事務所と契約をしてコンサート活動をしているだけあって、日本語に違和感は全くない。

彼の場合は、全体的にエネルギッシュに曲を歌いこんでいるという感じがする。

韓国の歌手の特徴である歌い方に、エネルギッシュで、どちらかと言えば押しつけるような表現の歌唱があるが、彼の場合は、そこまでのものは感じない。

中音域は、甘く響いた歌声が展開される。サビのフレーズに向かう部分で、若干、突き上げるような歌い方が垣間見える。また、高音部に於いて、「あ」「え」「お」の母音で終わる音節にて、顎で響きを堪える為、発音に不自然さを感じる部分がある。

最後、歌い上げていく部分では、さらにエネルギッシュに歌い上げる。

全体的な印象として、オリジナルの軽快な解釈ではなく、この人のこの歌に対する情熱的なイメージが展開された世界が表現される歌唱と言える。

 

 

★倖田來未の歌唱

女性の声だからなのか、倖田來未の歌唱は、この曲を全く違った印象にする始まりだった。

とつとつと歌い始める冒頭部分は、オリジナルや男性ヴォーカリストとは、全く違うけだるさが漂う始まりだ。アレンジに使われるキーコードもオリジナルと異なる為、さらに楽曲のイメージを異なったものへと誘う。

その冒頭部分に比べ、長いインターバルのあとに展開されるサビからの後半では、エネルギッシュで、情熱的な歌が展開される。

倖田來未の歌声は、ハスキーな中に中音域でときおり甘い響きが顔を出す。しかし、それはほんの一瞬でしかない。

高音部では、ハスキーさが消え、艷やかな響きが展開される。きっぱり決然と歌い上げるサビの部分は、男性と女性の楽曲の解釈の違いを感じさせるものだ。

最後は、彼女の持ち味であるハスキーな歌声によって締めくくられる。

 

 

★松原健介の歌唱。

 

この人の歌声も私は今回、初めて聴いた。

彼の歌唱が、一番、楽曲に忠実なのではないかと感じた。

彼の歌は、正攻法で、どのメロディーも自己流に崩すことなく、きちんと歌われている。

楽曲に使われている声域は、それほど広くないために、バリトン以上の歌手であるなら、オリジナルキーで十分対応出来る。

彼は、今まで聴いた歌手の中で、一番、この曲を軽快に歌っていた。

明るい声は、高音部になるとさらに明るく響く。若干のヴォイスチェンジが、高音部になると感じられるが、それは、さらに明るい響きになるのが特徴と言える。その為に、この曲の持つ切なさや甘さは、伝わりにくい

どちらかと言えば、2007年度の中西保志の歌い方に似たイメージだ。

 

 

★ジェジュンの歌唱

彼の歌唱が、5人の中で一番甘く切ないかもしれない。声質は透明感と艷やかさの相反する二色を持ち合わせている。

彼の場合、サビそのものの部分よりもサビに至るまでの部分の歌唱が印象的だ。

一つ一つ、言葉を噛み締めるように大切に歌うのは、彼が韓国人だからだろうか。この人もユン・サンヒョンと同様、日本語の発音に全く違和感はない。

全体的にブレスが多く混じったソフトな声質。その歌声は、高音部も変わらない。中音域の甘く艷やかな色みが非常に印象的であり、サビの部分ではそれほど情熱的に絶唱するという感じではない。全体に楽曲が、非常に優しいイメージに包まれる。

語尾の言葉の処理が決して歌いきりになることがなく、見事に処理されているのが、非常に印象的だった。