ここ何年か、グループから独立してソロ活動を始めたり、バンド活動を辞めてソロ歌手に転向したり、という事例が少なくない。

ソロ歌手になるというのは、簡単なようで簡単でない、という話を書いてみたいと思う。

 

ソロ歌手の素養というのは、私は持って生まれたものが大きいと思う。

もちろん、本人の努力は不可欠だ。

しかし、それ以前に大勢の中にいても人を魅きつけるだけの要素がなければならない。

それは、声だったり、歌の技量だったり、というもの以前に、そこに存在するだけで独特の雰囲気を持っている必要があると感じる。

即ち、圧倒的なオーラというものがなければ、グループの中で目立つことは出来ない。

そういう華やかさを持った上での技量が必要になる。

 

音楽的な素養を言えば、歌声がどれだけ特殊性を持っているか、魅力的な歌声かどうかは、非常に重要な要素になる。

これは、自分の好きな歌手の歌声を思い出してみるとよくわかる。

誰かに似た歌声だろうか。

好きな歌手と聴き間違うような歌声が他に存在するだろうか。

多くの人はNOと言うだろう。

そして唯一無二の声だと感じる。

それぐらいその人の歌声は特徴的なはずだ。

どんなに一人一人声は違うと言っても、似たような声の人は存在する。

特徴のない声なら、そもそも記憶に残らない。

響きや声質、歌いまわし、特徴のない歌声なら、それほど記憶に残らない。

記憶に残ると言うことは、その歌声がその人だとハッキリわかる特徴のある歌声だからだ。

グループで歌っても、複数で歌っても聞き分けることの出来る歌声。

ファンならそれは当然かもしれない。

しかし、ファン以外の人間の耳にも残る。

そういう歌声を持つ人は強い存在感を持つ。

これが重要な要素になる。

 

そして声だけでなく、一曲を最初から最後まで歌い通すだけの力量と表現力、構成力が要求される。

これがグループで歌ってきたものとの大きな違いになる。

そしてソロ歌手になるということは、ライブでは少なくとも10数曲を一人で歌い通さなければならない。

今までステージで何かあれば必ず誰かがフォローしてくれるという状態だったものが、一人でMCをし、進行をし、歌い、まとめ上げなくてはならないのだ。

ステージでどんなに困った状況になっても、自分の力で乗り切らなくてはならない。

自分のやりたい音楽、歌いたいもの、自由を手に入れる代わりに、何があっても、どんなことが起きても、あくまでも全ては自分一人で責任を取るという厳しい現実が待ち受けているのだ。

そこには大きなプレッシャーがかかってくる。

今まで分担していた責任やプレッシャーを全て丸ごと、自分で抱え込むことになる。

そういうものに耐えうる精神力を兼ね備えていなければ、到底、ソロ歌手として立っていくことは出来ない。

 

多くのソロ歌手の場合、それは最初から自覚せずに身につけさせられていく。

ソロ歌手としてデビューした場合には、そういうものは当たり前のこととして身につけてくる。

しかし、グループやバンドにいて途中からソロ歌手になった場合は、全く違う。

広い海原に一人、放り出されたような感覚になるかもしれない。

一人になってみて初めて味わう孤独感なのである。

そういうものを乗り越えていける人だけがソロ歌手として残っていける。

 

最近はSNSを使った映像コンテンツが発達しているせいで、プロとアマチュアの境界線が非常に曖昧になっている。

動画コンテンツを使って投稿したものが大ブレイクしてプロになっていくケースも多くなった。

それだけ自分を表現するということに躊躇がなくなっている。

そんな中で存在感を示し続けていくのは容易なことではない。

一曲、二曲のヒットは曲とタイミングに恵まれさえすれば、誰にでも出来る。

しかし、継続して何年も歌い続ける、存在感を示し続けるということは誰にでも出来ることではない。

 

最近のJPOPの若い歌い手達は、非常に上手い人が多くなった。

自分の音楽を躊躇なく表現する世代だ。

そういう中で誰が10年後、20年後も光を放ち続けているか、非常に興味がある。

予測を立ててみるのも私達オーディエンスの楽しみ方の一つだ。

評論家としては、そういう日本の状況を非常に楽しみにしている。