予告をしていて書けていなかった「倍音」について簡単に書いてみたいと思う。

 

 

「倍音」を持つ歌手は少なくない。代表的な歌手は、美空ひばり。他にも多数の歌手が倍音を持つ。

例えば、宇多田ヒカル、桑田佳祐、徳永英明なども代表的な歌手だ。

 

 

「倍音」がいくつも鳴った状態になるといわゆる「揺らぎ」が出没し、ヒーリングボイスと呼ばれる歌声と感じる。

また歌手だけでなくコーラスやアンサンブルなど、ハーモニーのある環境で「倍音」は生まれやすい。

 

「倍音」とはどういう状態の音を指すのかと言えば、基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音のことをいう。

例えば、100hzの音に対して、200hzの音は2倍の周波数を持つ倍音であり、300hzの音は3倍の周波数を持つ倍音となる。

これを実際の音に置き換えてみると、「ド=C3」の倍音は以下のようになる。

 

第1倍音 C3 第9倍音 D6
第2倍音 C4(オクターブ上のド) 第10倍音 E6
第3倍音 G4(オクターブ上にソ) 第11倍音 F#6
第4倍音 C5(2オクターブ上のド) 第12倍音 G6
第5倍音 E5(2オクターブ上のミ) 第13倍音 A6
第6倍音 G5(2オクターブ上のソ) 第14倍音 B♭6
第7倍音 B♭5(2オクターブ上のシ♭) 第15倍音 B6
第8倍音 C6(3オクターブ上のド) 第16倍音 C7

 

 

このように一つの基底音(基になる音)に対して、オクターブ上の同じ高さの音、もしくは調和音が同時に鳴っている状態を「倍音が鳴っている」という。

 

また倍音には「高次倍音」「低次倍音」なるものが存在し、これも基底音に対して高次倍音は高い音域での倍音を指し、低次倍音は低い音域での倍音を指す。

これらの倍音は、歌声の場合、その歌声の音質を決めるのに大きく影響する。即ち、その歌手の歌声の特徴的な魅力の要素になる。

 

倍音で有名なものに、「ホーミー」がある。これはYouTubeなどでたくさん動画があがっているから、参考に聴かれるといい。

実際の歌声を聴くとよくわかるが、非常に低いうなり声のような声(ドローン音)と, 非常に甲高い声(メロディー音)の2つの音を同時に発声する歌唱法でモンゴル民族の特徴的な歌唱法である。ここで鳴っている二つの音の関係が倍音になっている。

「ホーミー」はドローン音が非常に大きく鳴り響いて二つの音を同時に鳴らすため、誰もが二つの音の存在を聴くことができるが、普通、歌手の歌に存在する倍音はこんなにハッキリ聴きとることは出来ない。

響きの中で、何となく感じることになる。

 

美空ひばりは倍音を持つ歌手として有名であるが、彼女の場合は、歌声に対して高次倍音をいくつも持っている。これは、昨年NHKが開発した彼女の歌声をAIで蘇らせる企画の中で、ハッキリと証明されている。

この番組では最初、単に彼女の歌声の周波数と同じ音声を再生しても、長年聴いてきた彼女のファン達には受けが悪かった。科学的に同じ周波数の音を再現しているにも関わらず、「何かが違う」と言われたのである。

確かに似てはいるが音質の幅のようなものが全くないのだ。その為、さらに彼女の歌声を詳細に分析するといくつもの倍音が鳴っていることが証明され、AIの音声に倍音を被せて作り上げた歌声が、やっとファンに納得して貰えている。

 

美空ひばりの歌声は多種多様な色彩を持つことで有名である。

その色彩の根底に流れるものが倍音の存在であるということが科学的に証明されていく過程が描かれており、「倍音」というものの存在を多くの人が知るきっかけになったのではないかと思う番組だった。

 

彼女の歌声にも感じるように、倍音を持つ歌手の歌声は非常に多彩な色を持つ。

これはビブラートの有無にも関係するかもしれない。

ビブラートを持つ歌声は、響きに常に幅があり、音程に揺らぎが出やすい。

例えば高次倍音が強ければ、音程は高めに響いて上ずったように聴こえがちだ。また反対に低次倍音が強ければ音程が下がっているように聴こえたりもする。

さらに意識的に高次倍音を強調することで、実際にはそれほど高い音程でないにも関わらず、高い音を歌っているような声を作り出すことも可能である。

 

 

 

俳優で友人の福井貴一は、実際にはそれほど高い声を出していないにも関わらず、高次倍音を使ってセリフを話すことで、役柄の人間性を演じ分けている、と言っていた。倍音をコントロールするテクニックを身につけることは俳優としてステージアップすることに繋がるのだと思った。(彼の場合、元々ミュージカル俳優であるから、発声テクニックの基礎力は十分身につけているが)

 

このように倍音を持つことは、歌手や役者の声の音質に幅を持たせ、さらに表現の幅を広げることが出来る。

 

 

三浦大知が発声法を変えた時、「倍音が鳴った」と発言しているように、倍音は発声法によって左右されるものでもある。発声法を変えることで倍音を身につけることも可能だし、反対に発声法が変わったことで倍音を失うこともある。

また倍音は、常時ある人と楽曲によって出現することもある。

 

総じて、倍音を持つ歌手は音質が多彩な色になる。言い換えれば、倍音によって歌声の音質が決まるとも言える。

 

歌手の歌声は、唯一無二のものだが、その音色を決める要素は、声帯、筋肉、骨格、歯並びなどの身体的要素と発声法によるテクニックなど実に多様な要素が絡み合っている。

その中の一つとして、倍音は、歌声を魅力的にする重要なツールの一つであるが。

 

自分の好きな歌手の歌声に倍音が存在しているかどうか、注意深く聴いてみることをオススメする。

倍音によって、さらに魅力的な世界が広がっているかもしれない。