三浦大知のデビューからの曲をほぼ全曲と言っていいほどレビューを書いた。
彼の存在を知ったのは数年前だが、彼の歌を実際に見聞きしたのは2年前のドリフェスだった。
初めて彼の音楽に触れた人でも楽しめる。
そんなパフォーマンスを印象付けた。
その記憶が鮮明だったので、彼の曲をデビュー当時に遡って検証したくなった。
一体彼はどのようにして進化してきた歌手なんだろうか、と。

ダンスと歌。
この両輪が三浦大知という歌手の生命線だ。
この両輪を持っている人は数多くいても、二つともが優れた高いレベルで維持している人は少ない。
特に彼のようにソロ歌手でありながら、それが出来ている人はおそらく彼以外に見当たらない。

彼がなぜあれほどまでに踊りながら息ひとつ乱すことなく歌えるのか。
口パクが多い中、ソロで踊り歌い切るだけのテクニックはどこから来ているのか。
質問されることの多いこの疑問に答えてみようと思う。

なお、これは彼自身に尋ねた訳ではありませんから、あくまでも歌声とパフォーマンスを拝見した中での私の見解ということを先に明記しておきます。

記事は2回に分けて公開します。
まずは、発声を変える前の彼の歌い方についてです。

①発声を変える前

よく「歌声を変える」と言うが、それは厳密には「発声を変える」ということで、発声を変えた結果、歌声が変わったということになる。
三浦大知も多くの人が知るように発声を変えた。
その時期は何度も書くように2010年8月の「The Answer」の楽曲からになる。
これも何度も書いたが、発声を変える前と後では約1年3ヶ月のブランクがある。
このブランクが意味するものは何かと考える時、彼が発声を根本から立て直し、新しい歌声が安定するまでの時間だったのではないかと考える。
グループでない彼の場合、彼の歌声が全てであり彼の代わりはいない。
彼自身が安定した歌声を手に入れたと納得し堂々と披露することができるのに要した時間がこの1年3ヶ月という時間だったのではないかと感じる。

「発声を変える」ということは具体的にどういうことなのかと言えば、発声ポジションの共鳴腔の位置を変えるということに尽きる。
即ち、声を発した時に身体のどの場所に共鳴させるか、どの場所にブレスを当てて共鳴させるか、ということであり、その場所によって声は様々な色合いを見せる。

彼のように「ダンスをしながら歌う」というパフォーマンスを全曲一人でやり切るには、まず、どんなに激しく踊っても一切呼吸が乱れないだけの強靭な腹筋と背筋力が不可欠になる。
呼吸法、即ち、ブリージングを完璧に身につけていた上で発声をどうするかという話になる。
その呼吸法を彼は身につけていたと考える。
これは発声法の訓練というよりは、ダンス面から身につけていたのではないだろうか。
ダンスもブレスをコントロールすることを要求されるからだ。

その上で、発声を変える前はチェストボイスで歌っていた。
チェストボイスというのは、所謂地声であり、胸に共鳴させている歌声だからチェストボイスと言う。
これは地声そのもの。
元々の話し声からそのまま歌に移行した声で何のカスタマイズもされていない。
そのために音域も限定的になる。

初期の頃の彼の歌は音域的に狭く高音になればファルセットで明らかに抜いた歌声になっている。
それこそが地声で歌っている証拠であり、この頃の彼の歌声には地声とファルセットという二種類しか見られない。
地声で歌う場合、呼吸は浅くなり深く入っていかない。
そのために歌声の響きは浅く深みのある色合いを出すことは出来ない。
音色も単色になりがちだ。
この頃の彼の歌の特徴は若い声という印象であり、それ以上のものを感じさせない。
透明感はそれなりにあるが伸びもそれほどではなく、どちらかと言えば歌よりもダンスに重きの置いた楽曲が多い印象を持つ。

浅い呼吸の中での歌声は強靭な腹筋と背筋があればある程度安定して出すことが出来る。
即ち激しいダンスを踊っても破綻なく歌えるということだ。
それは言い方を変えれば口先だけで歌っている印象が強く、ダンスしながら軽く口ずさんでいるという印象を拭えない。
マイクがある程度の音量を拾っているという印象もある。
これがこの時期の激しく踊っても破綻なく歌える理由と考えられる。