ボーカルテクニック第3条「なぜ、発声練習は必要なのか?」
誰もが本格的に歌を習い始めたら、避けて通れない練習がある。
これが発声練習である。
いわゆる音階からの発声練習をさせられる場合もあれば、何かの歌を使って発声を教えられる場合もある。
しかし、いきなり歌いたい歌を教えてくれる指導者はまずいないだろう。
どんなボイストレナーでも「声を出してみて!」と言うはずである。
いきなり「歌ってみて」と言われるなら、それは余程レッスン時間に余裕がないか、ボイストレーナーそのものが発声というものを習得してこなかったかのどちらかである。
普通は、先ず、声の状態を知る為に一番手っ取り早い方法として、発声をさせてみる。
そうすると大体、その歌手の持つ癖がわかる。
そして声の種類が分かるのだ。
高い音がスムーズに出せるのか、低い音はどうか、音域はどれぐらい持っているのか、変な発音の癖はないか、スムーズに声は出せるか、呼吸はどうなのか…
そんな基本中の基本の実力を知るには、発声をさせるのが一番である。
なぜなら、発声は、音程も言葉も何も考えないで、声を出すという基本動作に集中できるからである。
つまり丸裸の歌手の実力がわかるのだ。
だから発声をさせてみる。
そこで問題点を見つければ、解決策を示せる。
歌であれば、リズムや言葉や、音程など、声以外にたくさんのものに神経を集中させないといけない。
しかし発声なら、音階をなぞって歌うだけ。言葉も母音の5つが基本だ。
即ち、何も考えなくても、自分の歌声に集中出来る。
声を出す、ということに集中できるのだ。
これは、アスリートがグラウンドを走るのに似ている。
どんな運動選手でもランニングは基本メニューだ。
グラウンドを走ったりストレッチをしたりして、身体を解す行為は、その日の状態を知り、さらに基礎の脚力や柔軟性を培っている。そこには、自分の競技に直接関係のあるテクニックは含まれていないことが多い。
しかし、どんなアスリートでもランニングやストレッチは欠かさない。それが自分の競技の基礎となるのを知っているからだ。
歌の発声練習は、もっと歌そのものに直結したものになる。
しかし、声帯を支える腹筋・背筋を鍛えたり、喉の筋肉を鍛えたり、声帯そのものの伸縮性を確かめたり、と欠かせない準備運動の一つである。
そうやって準備運動をしている中で、自分の歌声を確認する。
出しにく音があれば、なぜ、出しにくくなっているのか、どうすれば出せるようになるのか、何度も何度も練習をする。難しい曲の中で練習するのではなく、単純な発声練習の作業の中で練習を積み重ねることで、確実にテクニックを身に着けることが出来る。
練習は単純なのがいい。
何も複雑なことを考えないで、身体が自然に反応するように身につけるのがベストだ。
いざ、歌を歌おうとすれば、身体が自然と反応する。
条件反射のように、正しいポジションでいい声が出る筋肉の使い方をする。
それが歌手としての基礎力になる。
だから発声練習は必要なのである。