ボーカルテクニック第2条「歌は建築物」

歌は建築物に似ている。

それは基礎と建造物、という二層に大きく分かれているからである。

どんなに素晴らしい建物でも、基礎部分がしっかりしていないものは、非常に壊れやすい。

しかし、いわゆる基礎の部分は地中に埋まっていて見えない。

それと同じように歌も基礎部分が見えない。

歌で言うところの基礎とは、発声と引き出しである。

発声はいわゆるテクニックの部分であり、その部分は日頃のボイストレーニングをどれぐらいやっているか、ということになる。

引き出しとは、直接的な音楽の知識であったり、独自の感覚であったり、さらにパーソナリティーであったり。

それらのものががっしりと地中に埋まっている歌は、実際に表現されるパフォーマンスをしっかりと下支えする。

この部分がしっかりしている歌手はどんなに歌っても潰れない。

言い換えれば、この土台がしっかりしていなければ、長く歌い続けることはできない。

長く歌い続けるためには、テクニックの部分と、音楽性の部分の両輪を持たなくてはならず、どちらか片方が欠けても歌い続けることは出来ない。

ほんの数曲、ほんの数年、線香花火のようにパッと活躍して散っていくミュージシャンもいれば、燻銀のように長く地道に活動を続け、独自の世界を築き上げ、大きな打ち上げ花火を上げていくミュージシャンもいる。

魅力的な歌を歌い続けるためには、建築物の外観と内装のように、どれだけ内部に蓄えているかが重要な鍵になる。

常に内省を試み、新しいことにチャレンジし続ける。

バランスの取れた歌は、強固な建造物のように、長く存在し続けるのである。