この3日ほど、ずっと脳裏の中で鳴り響いているピアノの音があって、それは、日常のふとした空白の時間だったり、こうやって原稿を書いたりしている時に、気づけば音が鳴っている。

なんの音楽だっただろうか、と思って、イントロの先を思い出してみたら、ジェジュンの「Time of Sea」だった。

この曲のピアノから始まるイントロ部分が非常に印象的で、その色彩は印象派のドビュッシーを彷彿させるものだ。

12月に配信された彼の「Last On-Cert」で久しぶりにこの曲を聴いた時の印象が音色として耳の奥に刻み込まれていたのかもしれないと思った。

 

この曲の構成は、A、A’、B、サビ、A’、サビ、C、サビ’、という形になっている。

この中で、A,A’部分では、音楽の進みがゆっくりしており、彼の声の音色は、ブレス音の混ざった不透明な音色であり、イントロから漂う怠惰的な音色をそのまま引き継いだ歌声と言える。

特に印象的なのは、A’メロディーの最後の音が長音になっているのだが、その音がそれまでの短調の和音構成から一気にその一音で長調に転調していくところだ。

その変化に従って、彼の歌声も長音で明るい色調に変わり、一気に色を取り戻し、サビのメロディーでは、ロマンティックに歌い上げていく。

そして、またA’のメロディーに合わせて、不透明な音色へと戻り、サビのメロディーへと展開するのである。

 

このメロディーの展開は、曲のタイトルである「Time of Sea」の名の通り、ひいては戻り、戻ってはひいていく、波の波形そのものを感じさせ、非常に叙情的だ。

 

ジェジュンの歌声の音色は、この叙情的な音色に一体化した音色から始まるのが特徴で、この人のデビュー当時から持つ「曲の持つ雰囲気をそのまま受け取って、息をするかのように歌い出す」という特色を十分に発揮したものになっている。

 

曲の世界観は、歌手の歌声に寄るものが大きい。

歌手の歌声によって、同じ楽曲でも全く違う世界観を現すのは、カバー曲を思い出すとよくわかる。

歌手の描くイメージによって、同じ曲がオリジナルと全く違った曲調になることはよくある話である。

 

そういう意味で、楽曲の世界観、音楽観は、歌手に委ねられている。

その歌手が楽曲を聴いてイメージする世界観によって、使う歌声の色彩は変わり、その色彩が、楽曲の世界を作りだすからだ。

 

ジェジュンの歌声の音色は、この楽曲の世界観を非常によく現している。

ロマンティックで、叙情的なこの曲の始まりの音の色彩感の中に溶け込んだ歌声になっているのが印象的だった。

 

もう一度、「愛謡」を聴いてみようと思った。