この曲がこの日の数ある歌唱の中で一番出来がいいと感じた。

元来、この曲はアルバム「WWW」の中でも異質の存在だ。

それはこの曲だけが発声を変えて彼が歌っているからである。この曲以外の歌声はビブラートの存在するフロントボイスの発声になっている(と言っても韓国語のポジション)のに対し、この曲は彼本来の持つビブラートを一切消し去り、ストレートボイスで歌われている曲で、彼が歌っているとは思えないほど別の歌声の印象を与える曲である。

その曲をこの日、彼はフロントボイスのポジションで歌っている。ポジションはフロントボイスに取り、ストレートボイスで歌っているのだ。すると非常に安定した歌声になっているのがわかる。

綺麗に響きが統一され、この日の歌の中で、一番安定した歌声になっている。

これはこの楽曲の音域が彼のノーズポジションに合っていることが一番の要因と思われる。

 

この日、彼の歌声の状態はいいとは言えなかった。しかし、発声ポジションを固定することで声の響きが安定するという状態になった。

本来のこの曲の持ち味である幻想的な歌声は鳴りを潜め、その代わりに現実的で輪郭のハッキリした歌声が浮かび上がっている。

ストレートな響きは色彩が整えられ、ポジションがあっちへ行ったりこっちへ行ったりすることがない。

色彩の濃い、しかし混濁のない綺麗な響きの歌声の粒が並んだ、という印象を持った。

 

喉の状態が悪い中でもこの発声なら、曲によっては安定した歌声を提供出来るということを証明している。

ただこれは彼本来のヒーリングボイスと呼ばれる歌声の高次倍音を持たない。すなわち、一音に対して複数の響きを持たない歌声になっている。また発声ポジションを固定化して歌うことは、喉にそれだけ負担をかけることにもなり、多くの楽曲を歌うことは難しい。

何曲かに限って言えば、この歌い方も有効的ということが言える。

 

歌手は自分の声の調子は誰に指摘されなくても自分が一番わかっている。

それゆえ、自分で自分の声の調子をコントロールできるテクニックを持っていれば、コンサートの中で修正することも可能だ。

ジェジュンはスロースターターのタイプで、エンジンのかかりが遅い。

今までのコンサーとでも中盤から声の状態が良くなることは、しばしばあった。

この日の歌声がこの曲をきっかけにどのように変化するのか、それもライブ音源を聞く上で興味深いものと言える。

 

ライブ音源がそういう意味で貴重な記録の一つになると思った。