②発声を変えた後。

先ずは彼がどのように発声を変えたのか、ということを考えてみたいと思う。

発声を変える以前は、彼の発声ポジションは喉、または胸の位置にあり、地声でそのまま歌っていたと考えられる。しかし彼は「The Answer」の前にボイストレーナーについて発声をやり直したと話している。
確かに「The Answer」の歌声は、それまでの歌声と全く異なっている。

先ずどういう点で異なっているかと言えば、声の種類が明らかに違っている。
それまでの彼の歌声はいわゆる地声、即ちチェストボイスが主流で、そこに時折ファルセットが顔を出すという形だった。
しかしこの歌ではチェストボイスは見当たらない。そのかわりに主流になっているのがミックスボイスと呼ばれるもの。
ミックスボイスは地声とファルセットの中間というか、二つの要素を混ぜ合わせた歌声と言った方がわかりやすいかもしれない。このミックスボイスを手に入れるには、発声を根本からやり直す必要がある。即ち、今まで発声していた場所とは違う場所に自分の声を当てていく作業になる。

歌の練習はあくまでもイメージトレーニングが主流で見えない場所の筋肉を使うために、自分の中にイメージを作り上げていく作業から始まる。そうやって感覚を養い実際に声を出してみる。またイメージする。声を出す。この繰り返しによって、自分のポジションを確認して身体に覚えこませていく。
あくまでも本人の感覚の問題であり、結果として出てきた歌声で判断することになる。
その場合、彼もボイストレーナーについたと言う通り、自分自身で判断するというよりは、他人の耳によって客観的に判断されることで何度も自分の中でポジションを確認していくことになる。

実際に彼がどのような作業をしたかは定かではないが、私が読んだ記事の記憶によると、「その声だ!」とトレーナーに言われてそれを忘れないようにして練習したという主旨の発言をしている。

そうやって彼はミックスボイスの発声法を身につけた。そのことによって音域は飛躍的に伸び、透明感のある伸びのある歌声を手に入れたと感じる。

ミックスボイスと息切れしない歌声とがどのように関係しているかと言えば、私は彼がおそらくフロントボイスのポジションを獲得したのではないかと感じる。
フロントボイスは顔の前面に声の響きを持ってくる唱法で、欧米や日本以外のアジア圏ではポピュラーな発声法だ。
ミックスボイスの正しい発声をするには顔の前面にポジションを持ってくる必要がある。上顎の裏側にある小さな筋肉から鼻腔にかけて声を響かせていく。さらに上の眉間の間まで響きを抜けさせることが必要だ。
このポジションで発声できれば、どんな体勢であっても歌をミックスボイスで歌うことが出来る。
また空気の流れに乗せて歌うので息が乱れることがない。

彼は日本語が非常に明確だが、日本語は得てして外国人が発音をすると非常に明確になったりする。それは欧米諸国や中国、韓国の言語がこのフロントボイスのポジションで発音されていることからくるものである。そのポジションでそのまま日本語の発音をするために非常に明確な発音になりやすい。
そういうことから考えると、三浦大知も日本語をフロントボイスのポジションで発音できているのではないかと推察するのである。

フロントボイスのポジションで歌えると、非常に歌手は楽に発声が出来る。また様々な響きの音色も手に入れやすく、さらに伸びのある歌声になる。

また腹筋背筋をそれほど使わなくても歌うことが出来ることから、激しいダンスを踊っていてブレスが乱れていても歌うことが出来ると感じる。

彼がヘッドマイクを使わずにハンドマイクを使うのはブレス音をコントロールする為だと考える。
どうしてもヘッドマイクだと息継ぎや息の乱れを敏感に拾ってしまうが、ハンドマイクであればそれらを拾わないようにコントロールすることが出来る。
ブレス音がしないのではなくて、これらのテクニックからブレス音をコントロール出来ているというのが正しいのではないかと思う。

何れにしてもそうやってミックスボイスを手に入れた彼の歌唱力は進化し続けている。
特に高音部のファルセットとヘッドボイスの切り替えなどは見事だとライブを聴いて感じた。

今後も彼の音楽にはこれらの要素の歌声が不可欠であり、そのポジションが維持できている限り、彼の歌は進化し続けるだろうと確信する。

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