三浦大知が歌った「島人ぬ宝」を聴いた。
アカペラで歌われた為に彼の声の状態が非常によくわかった。
素晴らしかった。
なぜ素晴らしいかと言えば、フロントボイスのお手本のような発声だったからだ。
三浦大知は、ハッキリ言ってそれほど音域が広くない。低音域も高音域も持っているが、それほど音域が広い方だとは言えない。
低音域は彼の言うように「声帯が緩んで」響きはソフトだ。また高音域はある程度以上の高さになるとファルセットでいつも響きを抜いている。それはそれで一つの歌い方なので彼が何をチョイスするかにかかっているが、中音域から高音域にかけてはいつも見事なフロントボイスになっていてピンと張った歌声が綺麗に響いていると思っていた。
この日のアカペラでは、これらの音色の違いをハッキリと感じることが出来た。
「島人ぬ宝」はちょうどメロディーラインが彼の一番出しやすい中音域を展開している。その為に声の響きが鼻腔から顔の前面に当たっていて、明るめの響きが安定している。これは音程が変化しても発声ポジションは変わらない。
彼が言ったように高い声のときには声帯がピンと張っているため、響きが額から顔の前面に抜けてよく響いている。また低音部は声帯が十分に緩んでいる為に響きも抜けてソフトな音色になっている。
これらの音色が彼の持つ歌声の特徴であり、ビブラートの響きを加減することでそれぞれの音域の音色に変化をつけている。
この曲からもわかるように、歌手の声の特徴を知るにはアカペラを聴くのが一番だ。
音程、音色、音質、息遣い。
そういう基本的なものが丸裸になる。
アカペラが安定している歌手は、基礎力がしっかりしている証拠であり、どんな歌にも対応出来る。歌手としての基盤がきちんと出来ているかどうかを知るにはアカペラで歌を聴くのが一番だ。
この日の彼の「島人ぬ宝」は突然のリクエストにも関わらず、落ち着いたいい歌を披露した。それはこの人のいつも音楽に向き合うスタンスが落ち着いている証拠であり、精神的に非常に安定したタイプであることを現している。
そして、いつでもどこでも島の歌を歌える彼は、彼の音楽のルーツがやはり沖縄にあるのを強く感じさせるものだったと言える。
三浦大知は非常に安定した歌手であり、音楽人だ。
この番組で彼の安定した精神性や客観的で温かい人柄が垣間見える。
どんなことにも動じない地に足がついた安定感は、彼独特のパーソナリティーであり、懐の深さを感じさせるものだ。
それが彼の他に類を見ない音楽のオリジナル性につながっているのだと思った。
三浦大知は、三浦大知であり、彼の音楽の世界はまだまだ伸びていく。
そういう余力を感じさせるものだった。