たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、約2年間の活動休止期間を経て、昨年、活動を再開させたMrs. GREEN APPLEを取り上げます。彼らのデビューから5年間活躍した“フェーズ1”と呼ばれるものと昨年活動を再開した“フェーズ2”と呼ばれるもののそれぞれの音楽の特徴や、ボーカリスト大森元貴のボーカルの魅力などについても分析したいと思います。
(前編はこちら)
フェーズ2─再始動
約2年間の活動休止期間を経て、“フェーズ2”は、メンバー2人の脱退を受けて3人体制で2022年3月に再始動しました。
休止期間中は、メンバーそれぞれがダンスやボディーメイクなど、音楽以外のことに積極的に取り組んだとのこと。ボーカルの大森元貴はソロ活動なども行いましたが、他の2人はほぼ楽器にも触らなかったとか。
そうやって休止期間を過ごした後、彼らは、2022年3月に『ニュー・マイ・ノーマル』を発売して再始動を開始。7月に復活ライブ「Mrs. GREEN APPLE ARENA SHOW “Utopia”」を開催しました。
そして11月に約3年半ぶりにシングル『Soranji』を発売しました。この曲は、映画『ラーゲリより愛を込めて』の主題歌になっています。
映画は実話をもとに作られたもので、第二次世界大戦終了後、厳冬のシベリア強制収容所に抑留された山本幡男の壮絶な人生を描いた作品。
大森は、この楽曲『Soranji』を「この作品が最後の作品になってもいいという思いで書いた作品」と話しています。「自分自身をこれ以上深く潜れないな、というところまで潜った作品」とのこと。
主人公山本の壮絶な人生と、戦争ものという重いテーマの中でも、愛情や希望、前を向いて歩いていく強さのようなものを描き切った楽曲と言えます。
「『ミセスのすべてはここから始まっている』ぐらいに言っても過言ではないくらいまで、全部落とし込んだ楽曲だと思うので。本当に大げさではなく、『これが最後でいいや』という気持ちで臨んでいった感覚ですね」というような主旨の発言をしています。(※)
『私は最強』に秘められたもの
“ フェーズ2“のコンセプトは、「カラフルな彩り方でエンタテインメント性の高い作品を届ける」というもの。
およそ相反するようなテーマに思えますが、決して『Soranji』は暗い曲ではなく、柔らかな光の中に優しさと愛が満ち溢れた楽曲になっています。
また、このシングルに一緒に収録されている『私は最強』は、映画『ONE PIECE FILM RED』の中の登場人物で歌姫であるウタの楽曲として、大森がAdoに提供したものです。
この楽曲では、映画で曲を使うシーンの資料を先に貰っていたとか。そのシーンのタイトルが「私が最強」だったそうで、大森が自分だったら、絶対にそんなタイトルはつけないと考えたタイトルが『私は最強』でした。
この“が”と“は”という、たった一文字の違いなのですが、受ける印象は全く異なります。
“私が”では、何者にも負けない自己主張を感じさせますが、“私は”になると、強さの中に弱さが見え隠れするという柔らかさを感じさせます。
「ウタは決して悪者ではなく、弱さと強さの表裏一体の感情を持った歌姫であり、誰しもが抱く感情だと思った」という趣旨の発言を大森はしています。(※)
『私は最強』の楽曲は、Adoに提供したものとは別にミセス用にアレンジを変えた楽曲があり、それは、バンド感の強いものになっています。
それまでのイメージを一新した楽曲
続きはこちらからMrs. GREEN APPLE『ポップでカラフル、自由な音楽の世界』(後編)人生を変えるJ-POP[第35回]|青春オンライン (note.com)