たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今年最後に取り上げるアーティストは、年内で無期限の活動休止を宣言した氷川きよしさんです。
氷川さんの演歌歌手としての歩みから、この数年の変貌までを音楽的観点や彼の発言などから紐解き、活動休止後の期待値までを書いていきたいと思います。なお、氷川さんは最近、ご自分のことを「氷川きよしではなくkiinaだと思っている」と発言されていますが、記事では今までのご活躍から便宜上、彼という3人称の呼称を使わせて頂きます。
芯の通った響きを持つ、強靭なストレートボイス
彼が拘る「ありのままの自分」。
自分本来の姿に戻り、自分をありのままに表現する、ということを、この数年、彼はよく口にするようになりました。そして、自分の歌についても、こう発信しています。
「演歌歌手ではなく、歌手・氷川きよしになったら嬉しい」
「何をやっても、どこを切り取っても“氷川きよし”であることは変わらないので、歌う時も演歌やポップスを区別する必要はないなと」
氷川きよしの歌声は、非常に伸びやかなハイトーンボイスが特徴です。この歌声はピンと張った強い歌声で、一本、芯の通った響きを持っています。
彼の演歌になくてはならない歌声ですが、元来、彼の歌声はストレートボイスで、演歌特有のこぶしや細かなビブラートというようなものは持っていません。
ですが、演歌を歌うにあたって、これらの響きをテクニックとして身につけたように感じるのです。
彼本来の歌声は演歌より、どちらかと言えばロックやポップスに向いていると言えます。ビブラートのない強靭なストレートボイスが特徴で、響きがまっすぐで安定しており、非常に伸びやかな響きを持っているからです。
この張りのあるまっすぐに響く歌声は、多くの人の耳に心地よく聞こえるはずです。
さらに演歌を歌うのに、しっかりとしたこぶしを身につけました。
たとえば、デビュー曲『箱根八里の半次郎』を歌っている当時の動画や音声を確かめると、彼がフレーズの最後に首や顔を振って、ビブラートをつけているのがわかります。
これは、元々、ビブラートのない細めの透明感のあるストレートボイスにテクニックとしてビブラートの響きをつけていると言えます。指導者から教えられた通りの歌い方をしているように見受けられる彼の歌声です。
年齢を重ねるにつれて歌声に現れる、透明感以上の色彩感
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氷川きよし『ありのままの自分を取り戻し歌い続ける存在』(後編)人生を変えるJ-POP[第17回]|青春オンライン (note.com)