最初に断っておきますが、これは評論です。

音楽評論は私の仕事ですので、どんなに個人的にファンであっても忌憚のない評論を書かせて頂きます。

今回の評論は、12年、彼の歌を聴き続けてきた私が、初めて評論家として生歌を聴いた上で書かせて頂くものです。

ファンの方が感じられるものや感想とは根本的に異なりますので、それを承知の上でお読み下さい。

ファンの方の気持ちとしたら、「彼が韓国人なのに日本語で歌ってくれている」「母国語じゃないのだから」「ただ歌ってくれればいい」というような気持ちを持っている方は多いと思いますが、そういう人にはこれから後の記事を読むことをおすすめしません。なぜなら、必ず批判的な反発したい気持ちになると思うからです。

私が韓国人である彼の歌を推すのは、彼が必ずJ-POP界でポジションを築けると信じているからで、その期待は12年前に最初に拝聴した時からの気持ちです。

それゆえ、どうしても他のアーティストより厳しい批評になるということを知っておいて下さい。彼には、韓国人であるというハンディーを必ず乗り越えられると信じています。

本当に評論を読みたいと思う方だけ、どうぞ。

 

 

【『J-JUN THURSDAY PARTY』1部、2部VocalReview】

 

今までも私のライブレビューを読んでくださっていた方にはわかると思うが、ライブレビューというものは、通常のレビューを異なり、その場にいて感じるものを書くものである。

その為、1曲ごとの詳細なレビューというよりは、その日のライブ全体から感じた印象を中心に書くことが多い。今回もそのようなレビューになることを最初にお伝えしておきたい。

 

この日の楽曲は1部、2部全体で13曲。

1部では以下の4曲。

・for you(高橋真梨子)

・Heaven

・Rain,Tomorrow

・We’re(Korean ver.)

 

2部では以下の9曲。

・愛してる(中島美嘉)

・BREAKING DAWN

・Sign

・Defiance

・六等星

・化粧

・Just Another Girl

・Good Morning Night

・We’re(Japanese ver.)

 

1部、2部共に始まりの曲は『Love Covers』からだった。

なぜ、持ち歌から始めず、これらの楽曲から始めたかといえば、彼の持ち歌は、どの曲のロック調の物ばかりで、最初から、しっかり歌声を出していかなければならないものが多い。

ライブの始まりには、もう少し静かで落ち着いた曲の方がいい、という判断が働いているのだと思われる。

その狙い通り、『for you』も『愛してる』も、歌い出しが静かに始まる。

彼の喉の調子がいい時であれば、双方の楽曲とも、甘い濃厚な響きの美しい歌声から始まったと思われる。

但し、この日の彼の歌声は、従来の彼の持ち声とは大きくかけ離れた響きをしていた。

 

彼の歌声の持ち味は、伸びのある高音と美しい響きだ。

この歌声の特徴は、ブリージング唱法によるものが大きいと思う。

ブリージング呼吸法による歌い方で、ブレス(息)を意識的に響に混ぜて歌う。

これによって幅があり伸びやかで美しい響きの歌声が形成される。

この歌声はミックスボイスの歌い方の一種だが、いわゆるミックスボイスは表声(地声)の要素が強いのに対し、ブリージング唱法による歌声は響きの中心が鼻腔に集まる裏声(ヘッドボイス)の要素が強く、顔の前に響きが当たるフロントボイスになっている。

この唱法が出来ると、非常に幅のある響きと伸びのある高音部が手に入る。

布施明の歌声がこの唱法を用いていて、いわゆるポップス歌手でこの唱法を身につけている人は多くない。

元々の持ち声が鼻腔に響きやすい良質の響きを持っていなければ、この唱法で歌うことが難しい。

ジェジュンの場合、グループ時代の初期に発声を変えた時から、この唱法を身につけていた。

その頃は、まだ年齢が若く声帯の成熟度が進んでいなかった為、ブレスの要素が非常に強くなり、響きが透明的で清涼感に溢れた音質だった。特に高音部にその特徴が現れていた。

20代の後半になり、声帯の成熟度が進むに従って、響きの色彩が濃くなり、中音域だけでなく、高音域も濃厚な響きになった。特に日本語の歌を歌う場合に、その特徴が顕著になった。なぜなら、日本語のポジションは、単純母音を響かせる為に、韓国語のポジションよりも鼻腔に近くなる為だ。

そうやって彼の日本語の歌は、非常に美しい濃厚な響きの歌声になっているものが多い。

これが彼の歌声の特徴である。

しかし、この歌声で歌うには、条件がある。

それはインナーマッスルが鍛えられているかどうかだ。

この点が非常に重要な鍵になる。なぜなら、ブレスを深い位置でコントロールしなければならないからだ。

その為に強靭な背筋と腹筋が必要になる。

三浦大知の歌声がこのところ、非常に高音部も中音域も安定しているのは、この強靭な背筋と腹筋を使って、ブレスをしっかり放り上げているからである。この筋肉の使い方を身につけると、いつまでも伸びやかな歌声を手に入れることが出来る、布施明のように(布施明は今年75歳)

因みに女性でこの歌い方を身につけているのは、森山良子、平原綾香、MISIAである。ただMISIAの場合は、ミックスボイスの比重の方が多いかもしれない。

何れにしても、この唱法で歌えている歌手は、それほど多くない。

この唱法はクラシックの歌唱法を勉強した人で、フロントボイスの唱法(欧米の発声法)を勉強した人にとってはポピュラーな唱法で、現在は日本のクラシック界でもベルカント唱法からこの唱法に切り替わる傾向にある。これは、海外で習得してくる人が増えた為で、ミュージカルの世界では早くから一般的だ。別名ブロードウェイ唱法と呼ばれるものでもある。

しかし、私が彼のファンになった12年前には、この唱法を身につけて歌っているポップス歌手は日本では皆無だった。

だから非常に印象に残った。

5人の歌声の中で彼の歌声だけが異質だったからだ。

この唱法を彼は韓国に戻ってからも続けていた。だから、私は彼の発声法に何の懸念も持たなかったのだ。

この唱法をしている限り、声帯が故障することはないからである。

しかし、長期のドラマ撮影に入ると、OSTの歌声ではよくない状態の歌声が多かった、

OSTで唯一、この唱法で歌えているのは、トライアングルのOST『嫌でも』だ。

この楽曲だけは、ドラマ撮影中にも関わらず、伸びのある歌声を披露している。

ただ、やはり睡眠不足による影響は声帯に出ていて、少しハスキー気味になっている。

 

このように彼の歌い方は、声帯の状態、身体の状態が直接反映されてきやすい。

また彼の声帯は力で押して歌うと、充血しやすく、すぐに擦れてくる。

声帯の粘膜が非常に薄いタイプだと思われる。

その為、力づくで歌うような歌い方を続けると、声が出にくくなる。

 

この日、彼は声帯の状態がよくなかった、

その上、長期のドラマ撮影で、歌に必要なインナーマッスルを使わない期間が続いたことによって、筋肉自体が弱ってしまっていた。

その為に、十分、ブレスをコントロールして、歌声を鼻腔まで持ち上げられない、という状況だった。

1部の歌は、どれも声帯と筋肉が温まり切れていないために響に潤いがなく、掠れ声になっており、2部では、急に歌い込んだ為の疲れが出て、歌声が持たなかった。

即ち、スタミナ切れという状態の中で、歌うという状況になったのである。

 

私のLINEに「番組を聴くたびに彼の時だけ、ミキシングの故障かと思うほど、歌声が聴こえない。そんなはずはないと期待したが、今回のオンラインの歌声を聴いて、気持ちが冷めた」という複数の人からメッセージが来ていた。

韓国にいるということは、歌が歌えない環境の中に長期間いる、ということになる。

歌声は、以前の記事にも書いたように、繰り返しの練習と鍛錬によってのみ、キープ出来るのである。

その環境は彼自身が自覚して作っていかなくてはならない。

 

この日、本来の彼の歌声の持ち味が出ていたのは、『化粧』だった。

この曲は、彼が非常に歌い込んでいる。

歌い込んでいる曲というものは、どんなに練習不足でも身体が覚えている。

その楽曲になると自然に身体が反応するのだ。だから、この楽曲においては、非常に充実した歌声を聴かせていた。

この他にも、『Just Another Girl』は、同様に長年歌い込んでいる為に、それなりの歌声をキープしていた。

『Sign』『Defiance』にも同様のことが言える。

『Good Morning Night』は疲れが出て、歌声が最後まで持たなかったし、最終曲の『We’re』に於いては、力で押した完全に喉声になっていても、声帯の粘膜がくっつかず、伸縮せず、かすれ声になり、響きが抜けてしまっていた。

 

この状況を改善するには、ただ一つの方法しかない。

それは基礎的ボイトレをすることだ。

彼の場合、発声の方法は身についている、ただ、筋肉が弱って、その方法を用いても身体が反応しないだけなのだ。

だから、歌えばいい。

どんな曲でもいいから、歌うことだ。

そうやって出来れば毎日、毎日が無理な時は、なるべく空白期間を短くして、歌うこと。

毎日歌えば、2週間ぐらいで筋肉が戻ってくる。

2週間以上、歌えば、歌うほど、どんどん歌声は戻る。

それだけだ。

とにかく、どんな曲でもいいから、声を出して歌う。

それだけのこと。

そうすれば、歌声は戻る。

 

日本活動が始まれば、嫌でも歌う機会が増える、というより、歌の仕事が大半になる。

そうなれば声を出す機会も増えるだろうから、歌声は戻ってくる。

但し、あとは歌い込みによるスタミナをしっかり付けられるかどうかにかかっている。

 

36歳は、30代後半に差し掛かった時期で、歌手にとってはここから40歳までが非常に大事な時期になる。

この期間にしっかり歌い込んでいるかどうかで、40歳以降の歌手生命が決まってくる。

 

彼がしっかり自覚を持って、歌に取り組むことを望む。

韓国では、この年齢で歌い続けている人は非常に少ない。

多くが歌手の仕事から離脱していく年齢だ。

そういう環境と認識の中で、彼が自分の歌を客観的に判断し、訓練するという自覚が芽生えることを期待する。

それが出来れば、彼はこの後の人生もずっと美しい響きの歌声をキープできるだろう。

 

彼の歌声は、天から与えられたものである。

その天性を彼が生かし切ることを願っている。