ジェジュンとジュンスがコラボした『六等星』を拝聴した。

前置きとして、アメブロにも書いたように、ファンとしての立場ではなく、音楽評論家として彼らの歌についての分析を忌憚なく書かせて頂こうと思う。

ここから先は、本当に評論を読みたいと思う人だけが読み進めて下さい。

 

 

今回、この曲を聴いて先ず思ったのは、この曲はコラボを想定して書かれたのだろうか、ということだった。

私の専門は歌声の分析なので、楽曲に関しての分析は専門とは言えない。但し、彼らが過去にいた2つのグループの楽曲や評論家になってから多くのアーティスト達の楽曲を聴いてきた経験から言えば、コラボ曲とするには、いささかスケールに物足りなさを感じたのは正直なところである。

私が知る限り、複数の人数で歌う場合の楽曲の作りは、それぞれのメンバーの特徴が十分に発揮できるように作られている事が多い。

その事から考えると、ジェジュンとジュンスの2人の持ち味が十分発揮できる楽曲の作りになっているようには感じられなかった、というのが正直なところだ。

曲は非常に良曲という印象を持った。

ただ、2人で歌うにはインパクトやスケールの点で物足りなさを感じたと言える。その理由は2つある。

1つは、2人の音域に楽曲の音域が合っていなかったこと。ジェジュンの持ち味であるハイトーンボイスも、ジュンスの持ち味であるパワフルボイスも、昨日、公開された部分に於いては存在していない。フルバージョンの後半のサビの部分に若干、そのような部分があるかもしれないという気がするが、それぞれの声の特徴を生かし切ったフレーズにはなっていないということ。

もう1つは、掛け合いの部分におけるフレーズが存在していないことだ。

確かに順番に歌うフレーズはある。しかし、2つの声が重なり合ったり離れたりするハーモニーの醍醐味も、2つの声が畳み掛けるように被さってくるフレーズもなかった。

そういう点で、この曲は、1人の歌手がしっとりと歌い継ぐ楽曲であるという印象を拭えない。

ハッキリ言えば、この程度のハーモニーならば、コラボしなくてもバックコーラスを被せるだけで十分に楽曲の世界観を表現できる。そういう印象だった。

2人で歌うなら、それなりのハーモニーの醍醐味というものを感じたかった。

ハーモニーの醍醐味は、それぞれの歌声が独立した音として存在し合う中で、共鳴し合うことが必要だ。東方神起の時には確かにそれが出来ていた。又、ユチョンとのコラボ曲『COLORS~Melody and Harmony』でもそれは実現していた。そういうことから考えると、今回の曲に於いては、それが残念ながら実現していない、という評価になるだろう。

 

又、私の専門である歌の分野、即ち、2人の歌をどう感じたかについては、かなり厳しい評論にならざるを得ない。

それは、先ず、久しぶりに聴いた歌声に於いて、2人とも明らかに声量不足だった。

ジェジュンの歌い始めの声は、確かに非常に慎重に響きのトーンを揃えていた。おそらくヘッドボイスからの歌声で綺麗に響きの粒を揃えて歌ってきたのだということはよくわかる。しかし、声量不足な感は否めない。これは、半年以上にも及ぶドラマ撮影の影響と言えるだろう。

では、なぜ、1月に行われたバースデーファンミのコンサートでは、声量不足にならなかったかと言えば、どの曲も過去に於いて、しっかり歌い込まれているからである。

ツアーやライブ、又アルバム制作で、何十回も歌いこまれてきた歌は、身体が覚えている。声帯が覚えているのだ。だから、練習不足であっても、それなりの歌を歌うことは出来る。

特にバースデーファンミで彼がチョイスした楽曲は、どれもバラードで、しっとりと丁寧に歌う楽曲ばかりだった。即ち、しっかり体筋を使って歌えば、声を安定して出すことの出来る楽曲ばかりだった。

おそらくジェジュンの中で、ドラマ撮影で疲労した肉体でも、破綻なく歌えるものを選んできたのだと思う。あの時の歌声とこの日の歌声は別人に近いものがあった。

印象的には、声が縮こまっている、と感じた。彼の持ち味である伸びやかさも甘い響きも殆ど存在していなかった。

そして、これは、ジュンスにも言える。

ジュンスの歌声は、私はほぼ3年以上、聴いていない。

ミュージカルで歌い続けてきたという歌声は、正直、どういう歌声になっているのか、予想できなかった。

この日の歌声は、ジュンスの方が意外だった。

非常に遠慮している、又は、気を遣って歌っている、という印象を受けた。

彼のパワフルで自分を表現することに躊躇しない勝気な歌は、どこにもなかったと言える。

どちらかと言えば、相手に合わせる、という、いい意味で言えば気遣いが勝った歌声という印象だが、昔のジュンスの歌声を知っている私から言わせれば、自分の持ち味を発揮出来ていない、という歌声だった。

2人の歌声を聴いて、感じたことは、お互いが探りながら歌っている、ということだ。

自分の音楽をどこまで出しても相手が大丈夫なのか、わからない、という印象の音楽なのだ。それが歌声の縮みに現れており、どれぐらい自分を出しても相手が受け止めきれるのか探りながら歌っている、という事象に繋がったと考えられる。即ち、精彩を欠いた歌声と言えるかもしれない。

 

その為に、音楽自体、ハーモニー自体が、全体に小さなものになってしまい、2人で歌うというダイナミックさや、伸びやかさが、2人の歌からは感じられなかった。これが、この楽曲のスケールをさらに小さいものに感じさせていると思った。

 

ハーモニーは、お互いの信頼関係の中で構築される。

それは練習によってしか培われない。

練習は十分に足りているかどうかは、歌声を聴けば、わかる。私でなくても、他の評論家も聴けばわかるだろう。

十分に練習された歌声は、音のラインが非常に伸びやかで、弾力に溢れている。ハーモニーに弾力がある。

しかし、練習が不足している場合、お互いがお互いの歌声を探りながら聴いて歌う、という動作になり、音の進行のタイミング、いわゆるカウント取りや言葉のタンギングの鋭さが鈍るという状態になる。

即ち、伸びやかな音楽にならないのである。

彼らは実際のところ、どれぐらい2人で練習したのだろうと思う。

それぞれに多忙のスケジュールの中で、どれぐらい2人で音楽を作れたのだろうか。

昔、一緒に歌っていた感覚があれば歌える、と思うのは、危うい感覚である。

今回のコラボが11年ぶりと書かれていたが、実際にはJYJでの活動があったのだから、そこまでのブランクはない。

しかし、少なく見積もっても、5年以上のブランクはあるだろう。

その間にお互いが作り上げてきた音楽も歌も、余りにも違いすぎる。そして、それは5人で歌っていた頃とは全く違う別物なのだ。

歌声、音楽感、楽曲に対するスタンスなど、どれ1つ取っても同じものはない。さらにその間に積み上げた経験も全く異なる。

今回、彼らは、一緒に歌うことで、自分達の感覚と現実に出来上がった音楽との違い、さらにお互いの感覚の違いを認識したかもしれない。

 

元々、ジェジュンとジュンスは、5人の中でも一番距離の遠い存在同士である。

音楽性、歌声、楽曲に対するスタンス、歌のテクニックなど、基本的な部分に於いて、最も遠い場所にいたのが、この2人だと言える。

そういう意味から言えば、今回のコラボは、お互いの自立と違いをあらためて認識する機会になったのかもしれない。

以上のような理由から、私はファンのように、彼らの歌を評価することが出来ないのである。

即ち、ジェジュンだけ、或いはジュンスだけで歌った方が、楽曲の評価が高くなるという印象を持つのだ。

楽曲自体は、非常にいい。

覚えやすい単純なメロディーは、多くの人の心にスーッと入っていける可能性を持つ。

但し、これを2人がコラボして歌う、ということが、返って楽曲自体の評価を目立たなくしている懸念は拭きれない。

 

 

2人がコラボするというのは、話題性としては一番だろう。

しかし、その話題だけでポジションを築けるほど、日本の音楽界は甘くない。

どんなにファンが高く評価しても、それと業界内での評価は全く別物であると言わざるを得ない。

多数のファンを獲得し、売り上げが上がること=業界内の評価が高い、という構図は成り立たないということだ。

 

この3年、多くのアーティストを見てきて感じるのは、日本の音楽業界の中で生き残るのは、並大抵ではない、ということだ。

長く歌い続けている布施明や玉置浩二などの存在から、King Gnuやofficial髭男dism、藤井風など、実力派のアーティストが次々誕生してきている日本の音楽界では、一過性の話題よりも、永続的な実力が問われる。

ジェジュン本人が望むように、「誰でもが知っている存在」になる為には、オリジナル性と圧倒的な存在感を持たなくてはならない。

ジュンスにおいても日本活動を見据えた今回のコラボであるなら、それなりの覚悟を持って、日本の音楽界に戻ってくる必要がある。

彼らが活躍していた頃のJ-POPとは、大きく違うほど、日本のアーティストのオリジナル性、パフォーマンス力は向上しているからだ。

かつてのグループ時代のファン層を中心としたものでは、これ以上の発展もポジションの獲得も難しいだろう。なぜなら、K-POPの主流は日本に於いてもBTSの売り上げが一番であり、中高年の消費者層を巻き込んで圧倒的だからだ。

その中で韓国人アーティストとして生き残っていくには、相当の覚悟を要するだろう。

 

今年は多くの韓国アーティスト達が日本に戻ってくる。

その中で彼らが、どのような活動と存在感を示すのか、非常に興味深い。

コロナ禍の中、今年は日本のアーティストも含めて、多くのアーティスト達にとって、正念場の一年になる。

その中で、活躍していけるのかが問われている。