山下智久の新曲『Face To Face』を含むEPが発売された。
私としては、彼の歌声は初体験。
NEWS時代の彼の歌すらよく知らない。
彼の近年の活躍も評価も俳優としての圧倒的なものだったから、独立後も俳優業を主体にしていくものだとばかり思っていた。だが、彼は昨年秋に既に楽曲をリリースしていたということも今回の楽曲を調べる中で知ったのだった。
正直、彼の歌声はどんなものなのだろうか、と思っていた。
俳優をしている彼を見る機会も私にはそう多くない。
印象に残っているものと言えば、私自身も好きな作品『コードブルー』の藍沢耕作ぐらいしか記憶にない。
藍沢耕作はいつも冷静沈着、クールに見えて、実は内面で多くの葛藤や思いを抱えている人間だった。それを全く外に出さないようにする。いつも客観的に物事を判断して的確に指示、行動する姿は、そのまま私の中の山下智久という人間を形作る一つのモチーフになっていた。
藍沢耕作の声は今も思い出せる。低音気味の少しハスキーでいつも喉に響きがひっかかったような話し声だ。決して前に出てくることはなく、声は通りにくい。少し暗めの鼻にかかった複雑な色をしている。
そんな印象の声だった。
その声の持ち主である山下智久が歌を歌う。
一体、どんな歌声なんだろう、と興味を持った。
そして聴いてみた。
意外だったのは、彼の歌声が案外明るかったことだ。
話し声よりもずっと歌になれば明るく、そして甘い。
そう、甘いのだ。
この甘さは、濃厚なミルクのような甘さでは決してない。
少し鼻にかかった透明的な甘さなのだ。
外国語に堪能な彼らしく、日本語のタンギングも全て顔の前に出てくる。
その為、高低の変化の少ないメロディーラインの中で、言葉だけが羅列していく今回の曲のようなメロディーでも、言葉が曖昧になりにくい。
英語と並列された日本語の発音やタンギングが、英語と同列の強さで同一化して響いてくる。
一見、言葉が不明瞭なように聞こえて、実は耳の中に残る。
この特徴は、藍沢耕作のセリフ回しでも同じだった。
顔の前面で言葉を発音する。
昔からの彼やプライベートな彼を知らない私には、これが彼の癖なのか、それとも俳優や歌を歌うときだけに現れてくるのかは、よくわからない。
しかし、甘い声で囁くように歌う彼の歌声は、それだけで彼独自の世界を作り出す。
強いロングトーンで歌い上げるよりも難しさのある世界を描き出している。
もう少しいろいろな歌声を聴いてみたい、
そう思った。
この人がどんな音楽の世界を構築していくのか。
ちょっと興味がある。