この楽曲を聴いたとき、

藤井風というアーティストの歌の上手さに、おそれいりました、と言わざるを得なかった。

彼の歌声のパフォーマンスは、はるかに私の想像を軽々と越えたのだ。

 

藤井風と言えば、その独特の音楽から、クリエイターとしての才能を高く評価されることが多い。

確かに彼の作る曲や歌詞には、従来のクリエイターにはない新鮮味があり、既に彼の音楽はある意味で完成されていると言っても過言ではない。

それは彼が幼少から、ハイクオリティーの音楽に触れる環境の中で育って来たことが、若干20代の前半にして完成度の高い音楽の世界を提供出来ることに繋がっていると言える。

彼のクリエイターとしての高い評価は多くの評論家やライターによって解説されているが、彼が優れた歌手であることを取り上げている記事は多くない。

しかし、この楽曲に於ける彼の歌のパフォーマンスは、非常に高いレベルを誇っている。

 

例えば、冒頭からの歌声は、低音域から中音域が中心のメロディーだが、これらのフレーズを歌う彼の歌声は、とても20代とは思えないほどの成熟度であり、太めの濃厚な色彩の歌声をしている。

ところが、

「たまには大胆に攻めたら良い〜」

からの歌声は、今度は色彩の薄い、どちらかと言えば響きが無色に近い音色に変わるのである。そして、徐々に響きの色彩に色が増していき、濃くなっていく。

サビの「それは何なん〜」からの一連のフレーズでは、明るめのハッキリとした色彩の歌声で歌われ、

「神様たすけて、やばめやばめやばめやばめ〜」のフレーズでは、低音域の濃厚な歌声が再び現れる。

さらに

「目を閉じてみて〜」からのフレーズでは、細めの響きに幅のない尖ったストレートボイスで歌われていく。

 

実にこの1曲の中に何種類もの歌声が使われているのである。

そしてその歌声に合わせるかのように、言葉のフレーズのタンギングや切り方も多種多様なのだ。

 

確かに藤井風のクリエイターとしての能力は非常に高い。

しかし、この楽曲を聞く限り、歌手としての能力も非常に高いものを感じさせる。

様々な色彩の歌声を持ち、それを自分の音楽に合わせて見事に使い分けてくるあたりは、自分の歌の能力の魅力を十分に知り尽くした上で、フルに引き出していると言えるだろう。

 

この楽曲1つを聴いても、彼の歌手としての高い能力がわかる。

まさに才能の宝庫だ。