氷川きよしのニューアルバム『You are you』に収録されている楽曲のMV公開の第二弾。
この曲は彼自身が大黒摩季に曲を依頼したというほどの入れ込み用である。
声はロックを歌うのに申し分がない。
声量、声の張り、インパクト、そのどれをとっても彼の歌は既に演歌の粋を脱している。
ポップスを歌い出した頃の演歌特有の低音部のうねりもすっかりと影を潜め、中音部から低音部にかけては余分な力が抜けて、響きだけで歌うテクニックを習得している。また、『You are you』同様、力みが消えて、自然体の中で彼が伸び伸びと歌っているのがよくわかる。
高音部の伸びは申し分なく、ロックにつきもののシャウトも完璧。中・低音部の歌声もすっかりポップ仕様になり、昨年の『Papillon』よりもナチュラルな出来になっている。
歌そのものが、ポップスを歌うことへの戸惑いをすっかり拭い去り、素直な表現として彼の中に定着しているのを感じさせる。
大黒魔季のハードな世界観が彼の歌声とよくマッチして、ビジュアルロックの世界を十分に伝えた一曲になっていると言えるだろう。
また、彼がこの曲の細部までビジュアルにこだわっているのがよくわかるMVでもあり、ビジュアル系ロックとしての世界観をしっかり提示している。
このような楽曲を拝見すると、彼が演歌歌手であることとの歌い分けは彼の中である程度、努力のいるものなのではないだろうかと感じる。
それほどにロックを歌う氷川きよしは伸び伸びとしていて、歌声が飛び跳ねているからだ。
演歌の場合、どうしても演歌という定義の中での歌い方を要求されること、男は男らしく、女は女らしく、という価値観の中で育まれてきた伝統があり、その枠から出ることを良しとしない風潮は現存するだろう。
それに対し、ロックの世界は非常に自由で、何をどのように描いても許されるものがある。
その違いの中で、歌い分けていくことの難しさは、彼が今後、どの音楽を活動の中心に据えるかによって大きく変わってくるように感じる。
自然で無理のない形で、彼が一番望む音楽をそのまま受け入れて貰える土壌が育っていけばいいと思った。