一昨日のCDTVでは、生演奏のコーナーに平原綾香が登場し、デビュー曲である「Jupiter」を演奏した。
「Jupiter」は2003年の曲。
今から18年前の曲である。この時の歌声とCDTVでの歌声を聴き比べてみた。
「Jupiter」は楽曲の特徴として非常に広範囲の声域を使ってメロディーラインが作られている。
音域はE3〜F5で、即ち、真ん中のC(ド)音より低いE(ミ)音から上のF(ファ)音という2オクターブ以上の広範囲の音がメロディーラインに出てくる。
E3音は、女性としてはかなり低い音になり、実際に歌声として使える人間は限定的だ。
彼女はこの低い部分をチェストボイス、即ち、胸声を使って歌っていると考えられる。また中音域ではミックスボイス、さらに高音域のヘッドボイスからファルセットという4種類の歌声を駆使している。
この歌声の種類は、2003年のデビュー当時から変わらない。
今回のCDTVでの彼女の「Jupiter」の歌唱とデビュー当時の歌声の一番違うところは、胸声の響きの音色と、ヘッドボイスの音色である。
先ず、胸声の響きは、2003年当時は、太くソフトで、無色に近い響きが主流になっている。それに比べて、現在の彼女の歌声は、全体にしっかりと音色がつき、綺麗に響いている。これは豊かなブレスを使って、しっかりと胸の部分に声を当てて響かせていると考えられる。
胸声がどれぐらい使えるかは、元々、その人が低音域をどれぐらい持っているかが大きく影響する。
声域は、高音はテクニックの習得と練習によって伸ばすことが出来るが、低音域は伸ばすことが困難である為だ。
これは声帯が、高音の場合は、薄く伸びていくのに対し、低音を出す場合は分厚くなるからで、低音域は持って生まれた音域が大きく伸びることはない。
そういう意味から考えると、E3の音を出せる彼女は、元々、持って生まれた低音域が広かったということになる。
その低音域が、年齢と声帯の成熟によって、透明的な音色から、色彩感の濃い音色へと移り変わってきたということと、安定的に低音を発声するために、しっかりと胸に響かせて歌うテクニックを身につけたということになるのだと考えられる。
もう一つの変化である高音のヘッドボイスは、2003年当時は、非常に響きが細く、声量も十分とは言えなかったものが、現在の歌声では、豊かな声量としっかりとしたソフトな響きに変化していることである。
これも声帯の成熟という肉体的な変化によって、安定した歌声になったこと、長年の演奏活動によって、筋肉が鍛えられたことによる歌声の安定度という事を感じる。
これらの変化によって、彼女の「Jupiter」の歌声は、ボイスチェンジによる色彩の変化はあっても、声量や響きの上では一貫したものがあり、非常に安定した歌声に進化してきたことがわかる。
いつもストイックに音楽、歌に向き合い、常に自分をコントロールして、歌声の管理をしてきた彼女ならではの進化の軌跡を感じた。
一昨年、実際に彼女のステージを拝見したが、音楽性、またジャンルの多様性、そしてそれらを表現できるだけの声の種類と安定性が抜群であり、非常にレベルの高い音楽を提供しているという印象を持った。
最近のミュージカルへの進出や、ボーカルユニットの活動など、非常に精力的で多角的な彼女は、歌手としてさらに進化していくように思われる。
コロナが収まり、落ち着けば、また彼女のステージを聴きに行きたいと思った。