私のレビューはよく特殊だと言われる。
それは、一般的にレビュー(評論)と言えば楽曲そのものにフォーカスしたものが多く、歌詞の意味や曲想を解説したものが多い中、私は歌手そのものに焦点を当てるからだ。
歌手の歌声。
このエネルギーがあってこそ、楽曲が生きてくる。
そのエネルギーは、歌手の人間性そのものが大きく左右する。だから、私のレビューは歌声からその人物そのものの背景まで書き込むことが多い。歌う人間が変われば、歌の波動も変わる。楽曲とはそういうものなのだ。
だからこそ、私は歌手そのものにフォーカスする。
それが特殊だと言われる所以である。
音の波動は大きなエネルギーを持ち、一瞬でその場所にいる人を癒し、一瞬で世界中に広がっていく。
一瞬で人間を鼓舞させる力もあれば、優しく癒す力も持つ。
いつもどんな時代も音楽は常に人々のそばにあった。
『花は咲く』
この楽曲は名曲だ。
どんなに荒れた土地であっても、どんなに痛みつけられた土地にでも、花は咲く。
たった一輪の小さな花に心が癒される経験を持つ人は多いはずだ。
どんな悲しみの後にでも、花は咲き、人々の心を癒す。
今、戦禍のウクライナにも。
ウクライナの情勢を目にする度に、心が痛みながら、少しでも彼らが癒されることを願う。
手越祐也の歌を聴きながら、今日が3月11日だったことを思い出した。
それほど、この数週間は心を痛める出来事ばかりだった。
この歌が世界中に広がればいいと思った。
花は心を癒し、平和な気持ちを思い出させるからだ。
こんなことを書けば、ファンの人に総スカンを食うだろうか?いや、きっと総スカンかもしれない。
まあ、いいや、私は評論家だ。
正直に書く。
動画の絶賛のレビューを横目で眺めながらも、書く。
それが評論家の仕事だから。
「真白な雪道に春風薫る〜」
1フレーズ目の歌声が聞こえて来た時、
あれ、と思った。
そして、珍しい、と思った。
ずいぶん甘い歌声で、粘って音程をずり上げてくるからだ。
もし、彼が私のレッスンを受けてるなら、
「ちょっと、ちょっと」と思わず言いたくなるぐらい、
彼の思いが強すぎて、これまでの彼の歌とは違っていた。
彼の歌にしては、珍しく、手越祐也そのものの顔が丸見えだった。
きっと彼にとって東北は特別なのだろう。
ずっと個人的に震災復興の支援をしてきたと聞いている。
だから、彼はこの歌に自分のありったけの思いを込めて歌ったのだろう。
冷静に聞けば聞くほど、珍しく音程は下からしゃくり上げ、地声丸出しのそのままのチェストボイスだった。
私が初めて聞いたのに等しいぐらい、「手越祐也」だった。
何度かYouTubeで話している話し声、そのものだったのだ。
でもこんな手越祐也もいいと思った。
なぜなら、本当に彼は何を歌わせてもうまいからだ。
曲によって歌声も変えてくる。
音程は正確で、VOCALOIDの楽曲も難なくこなして完璧に歌う。
カバーだって、なんだって、上手いのだ。
音楽のセンスが抜群なのだろう。
楽曲の雰囲気を即座に感じ取り、再現することに長けている。
彼がどんな方向性に進むかは分からないが、きっと何を歌っても合格点を軽く超えてくる。
そんな歌手なのだろう。
だから、たまには、これほど乱れた歌声もいいと思った。
彼の思いが募りすぎて、歌との距離感が珍しくなかった。
もし、彼が普段の彼なら、もっと綺麗にフレーズを繋いでくる。もっと全体的な歌声の色彩を統一してくるだろう。
でも、そうじゃなかった。
彼の思いが募りすぎて、手越祐也そのものの歌声だった。
あー、よかった。
いつも完璧な手越祐也より、ずっと人間味溢れている。
YouTubeで見せる顔がそこにあった。
そして、彼がこの歌を大切に届けようとしている思いが伝わった。
いい歌だった。