たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。

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今回は、2020年にメジャーデビューしたシンガーソングライターの優里を扱います。彼の代表作の一つである『ドライフラワー』は、配信のみだったにも関わらず、大ヒットとなり、それがメジャーデビューへと繋がりました。現代のアーティスト活動の象徴とも言える現象を巻き起した彼の音楽の魅力について紐解いていきたいと思います。

(前編はこちらから)

情景を彩るのは、3つの歌声

優里と言えば、その歌声によって表現される歌詞の世界観が圧倒的なのを感じます。それは彼の歌声が歌詞によって具体化された情景をさらに情緒的に彩るからとも言えるかもしれません。

彼の歌声は大きく分けて3つの種類を持ちます。1つ目はメロディー全般を覆うバリトンの歌声です。この歌声は全体に響きが少し混濁しています。しかし、フレーズや音域によって、綺麗に濁りなく鼻腔に響いた明るい歌声になったり、反対に少し混濁した暗めの歌声になったりと、さまざまな色合いを見せるのが特徴です。

この声が歌の主人公の複雑な心境を表すのにピッタリで、時に甘く、時に切なくリスナーの耳に届いてきます。

2つ目は、しゃがれ声です。これは、強いメッセージ性を持った歌詞のサビの部分に使われることが多く、主人公の感情の激しい揺れを、この声を使うことで描き出しています。

この声が特徴的に使われている楽曲に『インフィニティ』があります。この楽曲のサビの部分には、このしゃがれ声が使われており、彼が強いメッセージと共に意図的に使っているのがわかります。

3つ目の歌声は、ヘッドボイスです。彼のヘッドボイスは、ファルセット混じりのソフトで柔らかい響きの歌声と、綺麗にヘッドボイスに変換された細めで尖った響きの2種類の歌声からなっています。

ソフトな響きが特徴的に使われているのは、『かくれんぼ』のサビの出だしの「かくれんぼ」の言葉です。この言葉の歌声はソフトでファルセット混じりの響きから入ってきます。

これに対し、綺麗に芯のあるヘッドボイスを披露しているのは、『ベテルギウス』のCメロのあと繰り返されてくるラスト一回目のサビ「僕ら見つけあって手繰りあって同じ空〜」から始まるサビの部分は、細く尖った響きの綺麗なヘッドボイスです。このフレーズの最後の言葉である「〜誰かに繋ぐ魔法」から、歌声は明らかに変わります。

『べテルギウス』のサビの歌声は、この上記の場所のサビを除いて、すべて太めのしゃがれ声で歌われており、「〜魔法」の歌声が細い響きから強い響きのしゃがれ声へと変換されてラストのサビの繰り返しに入っていくのが聞き取れることでしょう。

そして最後のサビは、それまで何度も繰り返されてきたサビと同じく太く強い響きのしゃがれ声で歌われていくのです。

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しゃがれている声が武器になる

 

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