たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、元ジャニーズ事務所でNEWSのメンバーだった手越祐也を扱います。同事務所には、彼のように退所独立後、アイドルからソロアーティストへの道を踏み出している人が何人もいますが、彼の活動の仕方やアーティスト活動と並行しておこなっている慈善活動などから見えてくる彼の人間性や音楽性について、紐解いていきたいと思います。
(前編はこちらから)
グループで歌うこと、ソロとして歌うことの圧倒的な違い
アイドルグループのボーカルを担当してきた人がソロのアーティストを目指したいと思うのは、ごく自然な欲求ではないかと思います。手越祐也だけでなく、アイドルグループで歌って来た多くの人がグループを脱退してソロ活動に入っていくのを見てきました。
ですが、誰もが成功するとは限りません。うまく転向していく人もいれば、ソロ活動をしばらくやってみて再びグループに復帰するという人も少なからずいます。
そういう人たちを見てきて、何が違うのかを考えた時、1つ言えるのは、圧倒的な「華」を持っているかどうか、ということだと思います。
1人で歌うというのは簡単なことのようで簡単ではありません。多くの人が誤解するのは、グループでメインボーカル、又は、メインに近いほど、簡単にソロ歌手になれるだろうと思うことです。
確かに今までソロアーティストへ転向した人は、グループの中でメインボーカルか、それに準じたポジションにいる人が多かったのは事実です。しかし、グループで主に歌うことと1人で歌うこととは全く違うのです。
この部分を本人も含めて誤解している場合、上手くいかないケースが多いと思われます。
グループでメインボーカルを担当するというのは、1曲の中でのサビを歌うことが多いです。また、歌い出しやサビと言った目立つフレーズを歌うことで、自分の歌唱力をアピールします。
しかし、それはその部分に限っての歌唱力であって、その実力がそのまま1曲を歌い通せる力になるかどうかはわかりません。また、グループの場合、楽曲を作る側は、メンバーそれぞれの音域や声の特徴を考慮して、一番得意と思われるフレーズやハーモニー構成にすることが多いです。
すなわち、歌う側からすれば、一番出しやすい得意な音域のフレーズが与えられることが多いのです。
これがグループで歌っている時とソロで歌う時の根本的な違いで、ソロで歌うということは1曲全部を最初から最後まで1人で歌うということなのです。
なんだ、そんな当たり前のこと、決まっているじゃないか、と思われる人も多いかもしれませんが、グループで長く歌手活動してきた人は1曲を通して歌うという経験が多くありません。
必ず自分以外の人が歌うフレーズがあり、その間は歌を休んでいることが出来ます。しかし、1人で1曲を歌うということになれば、最初から最後まで、どんな状況になっても歌い続けなければなりません。いわゆる休みがないのです。
これが最初からソロ歌手を目指して練習し活動してきた人間と、グループの中で何箇所かを担当して歌の練習を積んできた人間との根本的な感覚の違いです。
さらに、ステージに立てば、10曲以上の楽曲を歌い通す力が要求されます。歌う力だけでなく、MC、会場にいるファンを引っ張っていく力が要求されるのです。
ソロの絶対条件「華がある」とはどんな人か
続きはこちら手越祐也『自身の力でアーティスト人生を切り拓く』(後編)人生を変えるJ-POP[第22回]|青春オンライン (note.com)