元宝塚トップスターで今年舞台生活60周年を迎えた榛名由梨さんの『永遠物語』(「無法松の一生」)を拝見した。

たまたま私の友人で元タカラジェンヌの伊吹あいが出演するというので案内をくれ、チケットを取ってもらった。

榛名由梨さんといえば、私が宝塚の大ファンだった頃、それまで安奈淳さんのファンで月組の舞台は拝見したことがなかったのが、『ベルサイユの薔薇』をやるというので、初めて月組のステージを拝見しに行ったのを覚えている。

その後、宝塚はベルばら空前の大ヒットで配役を変えたり、「オスカル・アンドレ編」や「フェルゼン・マリー・アントワネット編」など、さまざまな様態で再演を繰り返し、「ベルばらといえば宝塚」「宝塚といえばベルばら」というぐらい、漫画という2次限の世界を実演することで3次限の世界に引き上げたのは、まさに宝塚だからこそ出来たと言える。

とこんな偉そうなことを書いている私だが、その頃は榛名由梨さんと麻生薫さんのオスカルとアンドレをドキドキしながら見ていた高校生の1人だったに過ぎない。それが巡り巡って、こんなふうに榛名由梨さんの記事を書くことになったりするのだから人生は本当にわからない。(ここ以降の文章は評論家として、書かせて頂くので、失礼ながら呼称に敬称はつけない)

 

私は榛名由梨の『永遠物語』は拝見したことがなかった。友人の伊吹あいも1982年の初演時メンバーなのだが、その頃は既に友人だったはずなのになぜか見に行っていない。

当時、オスカル、アンドレ(榛名由梨は両方の役柄を演じている)などを演じ、つけまつげに金髪、カール、ウェーブが当たり前なのが煌びやかな宝塚トップスターが、文学座や新派で演じられていた硬派の演目で、黒髪、まつ毛なしの無法松を演じるということで、非常に話題になった作品だったと聞いている。おそらく榛名由梨の演技者としての新しい分野が開拓された出し物でもあったと想像出来る。

その後、1983年、1988年、1998年、2013年となんと4回も再演され、今年、舞台生活60周年の記念舞台に選んだものが、この作品というのは、榛名由梨にとっての紛れもなく、『永遠物語』が代表作と言えるのだろう。

だから私が彼女の舞台を実際に拝見するのは、「ベルばら」以来、実に50年ぶりに近いということになる。

 

今回、非常に多忙で、さらに有名な『無法松の一生』と言われても無知な私は、予備知識も持たずに舞台を拝見する羽目になったのだが、『永遠物語』は本当に冨島松五郎という人物の一生を芝居と共に辿っていくという感じだった。

原作は岩下俊作、脚本は、私達世代のヅカファンにはお馴染みの草野旦氏だったからなのか、宝塚らしい歌や踊りが入っていたからなのか、全2幕の2時間半という長い出し物が全く退屈せずに観れたのは、出演者全員の高いクオリティーの賜物だったと感じる。

今年、77歳になるという榛名由梨は、とても年齢を感じさせない。

先日、徹子の部屋で安奈淳と出演した折に、ボイストレーニングのことを聞かれて、安奈淳は当然の如くやっていると話したが、彼女は殆どやっていないように話していた。これが本当なら驚愕である。

2時間半の間、ほぼ出ずっぱりの主役を演じ、大声で泣き叫び、セリフをとうとうと喋っても、最後まで声が枯れなかった。そして、鉄パイプのようなもので簡単に組まれた階段の舞台を手すりもなしに上まで登っていく姿は、とても77歳とは思えない。

身体の芯がブレずにしっかりしているからこそ、立ち回りも出来るし、人力車もひける。

本当に「榛名先生、恐れ入りました」と頭を下げるしかないと思った。

 

寿ひづるや若葉ひろみなど懐かしいベテラン勢がガッチリと脇を固め、非常にクオリティーの高い舞台になっていたと感じた。

一緒に行った宝塚ファンの友人も「今日は宝塚って感じじゃなくてお芝居を観た、って感じだったけど、とてもいいものを観せて貰いました」と話していた。

最後、松五郎が雪の中、1人で死んでいく場面では思わず涙が溢れた。

本当に心温まるものを観せて貰ったと思った。そして、これで無知な私も立派に「無法松の一生」について語れると思った。(昔の宝塚は、こうやって名作を知ることが多かった。宝塚を見ては、その後、かならす原作を買って読んでいたから、小学生の頃から私は山本周五郎やシェイクスピアや新撰組などを平気で読む子供だったのだ)

 

ベテラン勢と若手退団者による舞台はチームワークが抜群で、歌も芝居も踊りも非常に安定感があり、安心して芝居に没頭することができたのは、さすがとしか言いようがない。

宝塚出身者が、各人のクオリティーが非常に高いレベルを維持し続けているのは、退団して何年、何十年経っても舞台人としての自覚を持ち続け、若い頃に徹底的に鍛えられている所以だと改めて感じた。

 

最後に私の音大時代からの友人である伊吹あいも、初演当時の警官の役柄で出演し、それ以降も号外屋や芝居小屋主やら、あちこち出まくって大活躍だった。久しぶりに友人の男役姿が観れて本当に嬉しかったし、大阪で観れるとは思っていなかった。

 

こうやってかつてファンだった宝塚スターの舞台や友人の舞台を拝見し、レビューを書かせて頂ける立場になったことを改めて感じた。

私の宝塚歴は、真帆しぶきさんの『あゝ、そは彼の人か』から。

今でも主題歌が歌えるし、主人公のトム・アームストロングという名前も淀かほるさんが相手役だったことも覚えている。それぐらい鮮烈に記憶に残る舞台だった。

それから何十年の月日を経て、今、こんなふうに評論を書くことになるなどとは思いもしなかった。

女子校の文化祭で当時大流行りだったベルばらの「白ばらの人」を歌い、大喝采を浴びたのを覚えている。その頃の私には、将来、宝塚の評論を書くようになるなど、露とも思わなかった。

人生は何が起きるかわからない。