こんな音楽評論家になりたての新米ペーペーの私が書くのもおこがましいが…
どこまで歌が上手くなるんだろう…
先日NHKで放送された『玉置浩二シンフォニックコンサートin河口湖』
1時間の放送に凝縮された彼の歌声は、まさに「歌神」そのものの姿だった。
「命ある限り、歌い続けたい」
最近の彼はよくこの言葉を話す。
安全地帯40周年、ソロ活動35周年という節目を迎えた今年。
長い彼の活動人生は、順風満帆というふうには決して行かなかった。
それは外部からの圧力というよりは、彼自身の内面の葛藤から起きる数々の出来事だったように感じる。
私は彼が活躍していた全盛期は、クラシックの仕事から結婚、子育てという人生の繁忙期でおよそJ-POPとは無関係の世界にいたと言っていい。
そんな私でも彼の代表作となるような楽曲はいくつも知っているし、それと同時に彼の人生を揺るがすようなエピソードも当時の騒ぎと共に記憶している。
だから数年前に彼のコンサートを初めて拝見した時、男性ファンから「タマキ!」と声のかかるのを見て、本当に彼が長くファンに愛され続けていたのを知ったし、長きに亘って、彼に何が起きようとも、彼が何をしでかそうと、彼についてきた多くのファンがいることを改めて知った。
そして彼の生の歌声とステージを見て、その理由を納得した。
彼は歌そのものだった。
何をしでかそうと、彼の歌だけは、まっすぐにいつも存在している。
天に届きそうな、まっすぐに伸びた歌声。
真正面から歌に向き合い、堂々と歌い切る姿。
音楽、歌、というものに真摯に向き合い続ける姿。
決して「歌」というものから逃げない姿。
そんな彼だからこその内面の葛藤。
そういうものを全て包み込むような歌声。
この魅力が玉置浩二のファンを離れさせない理由なのだと思った。
歌に真摯に向き合う。
どんな時もいつでも。
だからこそ、己の葛藤に負けて向き合えない自分が許せない。
その不安定さが決して順風満帆に進まなかった理由なのかもしれない。
そうやって数々のものを乗り越えて、2015年から始めたクラシックコンサートは、玉置浩二の集大成とも言えるコンサートだ。
河口湖のステラシアター野外劇場との22年前からの関わりや、工事現場でギター一本で何の飾り気もなく、地面に座り込み、わずか10名余りの作業員の前で即興で歌う彼からは、「純粋に音楽と歌を愛する素朴な人間」という姿しか浮かび上がらない。
これが彼の本来の姿であり、何が起きても根底に流れ続けた玉置浩二の音楽、歌に対する原点なのだと思った。
歌声の素晴らしさは、あらためてここに書く必要もない。
「命ある限り、歌い続けたい」と話す彼が、少しで長く歌い続ける姿を観たい。
そして、1人の聴衆として、彼の人生の後半にギリギリで間に合った幸運に良かったと思う。
音楽評論家になってよかったとあらためて思えた瞬間だった。
楽曲ラインナップ
1.カリンと工場の煙突の上に
2.CAFE JAPAN
3.星路(みち)
4.ワインレッドの心
5.じれったい
6.悲しみにさよなら
7. 夏の終わりのハーモニー
8. 田園
9.メロディー