氷川きよしの新曲『群青の弦』の視聴動画を拝聴した。

今回は、演歌の王道とも言える楽曲だ。

氷川きよし、言えば、「演歌の貴公子」

そんな冠言葉が長くついているほど、氷川きよしと言えば演歌、演歌と言えば若手の筆頭にいつも彼の名前があった。

そういう印象を多くの人が持っていたはずだ。

しかし、彼はそのイメージを打ち破って、新たなジャンルに足を踏み入れ、ジャンルに捉われない活動をしている。

そんな最近の彼は、非常に魅力的で、演歌ファンに限られていたファン層を一気に広げたと言えるだろう。

それでも長くずっと彼を応援してきているファンは、演歌を好む人が多いのも確かだ。

そのファンにとっては待望の一曲であり、氷川きよしの真骨頂発揮、と言える一曲でもある。

 

久しぶりに彼の演歌を聞いたが、以前の歌い方と大きく違っていると感じたのは、低音部の唸りだ。

以前の彼は、演歌節とも言える低音部の唸りが歌声に存在していた。それは演歌歌手特有の響きで、元々、ストレートボイスでビブラートを持たない彼にとっては、こぶしと共に、身につけるのに非常に苦労したのではないかと思えるテクニックだ。

デビューから年数を経るに従って、その唸りは強くなり、低音部の響きは扁平的で力強い音色をすることが多かった。

しかし、今回の演歌にはその音色はほとんど見られない。

非常に綺麗でストレートな低音部の響きをしている。

何より無理のない発声で、いい意味で力が抜け、聞いている人間の耳に心地よく入ってくる音色になっている。

このような変化は、ポップスなどのジャンルを多く歌うことで、自然と人工的につけてきた唸りが消え、ストレートで綺麗な響きの低音部が出現したように思われる。

そして、このほうが断然、歌手の声帯にとっては負荷のかからない発声なのだ。

 

彼が数年前にポリープを長年患った上で手術したのは、やはり演歌を歌うことによる声帯への負荷であると私は想像する。

そういう点からも、演歌の歌い方の音色が自然な発声になっていることで、さらに歌声の魅力が増し、長く歌い続けることができるのではないだろうか。

いずれにしても、今年は45歳。

彼が長く歌い続けていくには、演歌も一つのジャンルとなっている今の活動の仕方が、一番いいように感じる。

 

それにしても、真っ直ぐに竹のように伸びやかな響きで歌う演歌は、やはり非常に魅力的であり、彼にしか描けない世界観でもある。