手越祐也のア1stアルバム『NEW FRONTIER』の前半6曲のレビューを順番に掲載します。

過去にレビューした楽曲も、歌声や楽曲の分析を重点的に解説し直しています。

 

『NEW FRONTIER』

1.『ARE U READY』

アルバムの第一曲にふさわしいアップテンポでポジティブな楽曲。

手越祐也の持ち味は、どんなにアップテンポの楽曲でも歌詞の言葉が明確に聞こえてくることだ。

これは非常に重要なことである。

現代のJ-POPの楽曲の傾向として高速のメロディー展開が挙げられる。即ち、速いテンポで小刻みに音程が上がったり下がったりする高速回転のメロディー展開の楽曲が非常に多い、

これは米津玄師やYOASOBIに代表されるVOCALOID音楽が一つのジャンルとして確立されてきた理由による。

また日本人はハイトーンボイスを好む傾向があり、ハイトーンボイスの歌手が多いのもその傾向による。

そういう点で、手越祐也は、非常に現代にマッチしたものをたくさん持っている歌手と言えるだろう。

この楽曲でも冒頭部分の

夢を夢で終わらせるつもりは
ないと誓ったあの日から
理想求め挑み続けREALIZE
ひたすら追いかけて

 

これらの言葉が明確に伝わってくることによって、リスナーは何のストレスもなく、音楽だけを追っていくことが出来る。

このストレスフリーというものが、歌手には絶対条件の一つであり、どんなに歌が上手くても、音楽が良くても、何を歌っているのかわからない、というものは、リスナーに非常な負担をかけることになり、ファン以外のリスナーの共感を呼びにくいことになりがちである。

そういう点で、手越祐也の評価は、一般人からも共感を得やすい歌手である、ということになるのである。

その持ち味を十二分に発揮している第一曲ということになる。

 

2.『Hello!!』

彼の中音域の歌声が中心の楽曲。

ハイトーンの彼の歌声と違い、中音域の歌声は、少し幅のある濃厚で甘い響きの歌声になっている。

 

Helloという世界共通の言葉を使って、多くの人達と気軽に繋がっていこう、という明るい楽曲。

「ノリノリの楽曲にしたかったので、僕も跳ねるような歌い方をしています。1月から始まるツアーでは、まだ客席から声を出すことはできないかもしれませんが、何かしらの一体感が出せたらいいなと思ってクラップを入れています。みんなで一緒に手を叩きたいですね。」

彼のコメントにあるように、明るい楽曲は、ライブで会場が一気に盛り上がる楽曲としても間違いがないだろう。

単純でシンプルなわかりやすいメロディーは、一度耳にすれば簡単に誰でも口ずさめる作りになっている。

ツアーを今後展開していくには、このようなシンプルで誰もがノリノリになれるような楽曲は必要不可欠である。

初めてライブに来た人間でも簡単に覚えられる楽曲であり、楽しい気分になることは間違いのない一曲。

 

3.『LUV ME、LUV ME』

中音域と高音域の歌声が交互に現れるメロディーラインのR&B。

中音域と高音域の転換が頻繁に出てくるメロディーになっているが、これは聴いているほど簡単なものではない。

中音域の歌声をコントロールする腹筋の使い方と、ハイトーンボイスをコントロールする腹筋の使い方は同じではないからだ。

さらにこの楽曲は中盤に差し掛かると、言葉数が多く、小刻みに動くメロディーが使われており、サビの部分の後半は言葉と音と言葉の洪水になっている。

これらを彼はいとも簡単に歌っているように聴かせている。

さらにどの音域の歌声も全て顔の前面に当たるフロントボイスのポジションで歌われており、歌声が全て前に飛んでくるのである。

この楽曲1曲を聞いただけでも、彼がどれほどボイトレを積んできたかがわかる。

また高速で展開する部分と長音符で展開する部分がメロディーの中で何度も繰り返され、その歌声のコントロールと支えのコントロールも見事なのである。

即ち、彼が歌手としてどれほどのテクニック曲を持っているかが一目瞭然の楽曲。

カバーとして配信していたYOASOBIの『夜に駆ける』でその片鱗は十分に示していたが、さらにテクニックが上がっていることを示している。

 

 

4.『Venus Symphony』

大人びた世界観を意識した楽曲。

彼の楽曲の中では数少ないアップテンポなポップス曲。

ひと昔の懐かしめの歌謡曲に多用されていたメロディー展開を現代風にポップにアレンジしている。

歌声は、ミックスボイスとファルセットから転換されたヘッドボイスを使って歌っているが、この二つの歌声の切り替えの変換が非常にスムーズに行われている。中音域は、彼の歌声の特徴である、やや鼻にかかった響きの混濁した甘い歌声になっている。

また、音楽に合わせて、全体的に彼の歌声も少し平坦で横広な音色を多用している。そうすることで、怠惰感を歌声にプラスしている。

またロングフレーズの語尾にシャウト音を多用することで、甘美な世界を表現している。

自分の歌声のハイトーン部分をかぶせたというだけあって、ハーモニーの一体感は非常に優れている。

 

 

5.シナモン

このアルバムの発売が発表されたときの最初の配信曲。

この楽曲は、彼の非常に優しい歌声が印象的である。

手越祐也と言えば、快活で明るい音色の歌声という印象があり、元気のいい歌手、というイメージを払拭している。

特に冒頭の歌い出しのフレーズは、これ以上ない、というほどの優しさの現れる歌声で、音程の取り方も鋭角的ではなく、そっと音に寄り添う形で歌い出されている。

その歌い出しから、後半になるに従って、彼の持ち味である明るい音色に転換されていき、パワフルな歌声で終わっていく作りになっている。

この楽曲で彼の歌声の多種多様な歌声の色彩を感じることがわかる。

尖った歌声もあれば、曲線的優しい音色もあり、明るい元気のいい歌声もあれば、平坦で横に広がる歌声もある。

さらにこの楽曲では優しい音色に加えて、故意的に扁平的な響きを与えることで、音色を扁平的なもので冒頭のフレーズが始まっており、後半のサビの部分のハイトーンボイスの縦に響き歌声との対比が顕著な一曲。

 

6.七色エール

サビの部分でタテ刻みの音楽が展開されていく楽曲。

この楽曲の作りに対し、彼の歌声は言葉のタンギング(アタック)を鋭角的に深く刻んでいくことで、縦ラインの音楽を強調した歌い方になっている。

縦刻みの音楽のリズム感に歌声を鋭角的に載せていくことで、楽曲のテンポ感はさらに良くなり、音楽が前へ前へとのめり込んでいく作りになっている。

前半はやや横滑り的な歌声になっており、中音域ということもあり、珍しく言葉が立ってこない。その代わり、音楽が横に幅広く動いていく。それに対して、サビのメロディーに対しての歌声は鋭く明確になっている。

この2種類の歌声をうまく楽曲の中に散らばらせることによって、多重的な色彩感を与えている。

12楽曲のちょうど真ん中にあたる楽曲で、インターバル的な要素が施されている。