手越祐也が歌った「A Whole New World」の動画を観た。
正直なところ、ここまで彼が歌が上手いということを知らなかった。
こんなことを書くと、ファンの人からお叱りを受けそうだが、いくつかの動画を拝見してきて、彼が歌が上手い、ということは理解していた。しかし、それはどの歌も上手く歌っている、という印象でしかなかった。
その理由として彼がカバー曲を歌っているということにも起因していたかもしれない。
彼のオリジナル曲を聴いていない為に、彼の歌手としてのパーソナリティーのポジションがイメージ出来なかった。
声が綺麗な歌手なのか、フレーズの処理が上手い歌手なのか、独特の音楽観を持つ歌手なのか…
そういう独自のイメージをカバー曲だけではどうしても抱きにくいところがあった。
ただ、彼がしっかりとしたボイトレを受けている歌手であり、音楽、歌に真摯に向き合っている歌手であること、本当に歌が好きなのだということは、よく伝わってきていた。そして歌うことに貪欲であり、常に向上心を持っているということもよく伝わってくるのである。
しかし、今回の彼のこの曲を聴いて、彼に歌手としての伸び代がたくさんあり、多くの可能性を秘めているということがよくわかるのである。
「A Whole New World」は、デュエット曲である。これを一人で歌うというアイデアも素晴らしかった。彼の新しい試みを多くの人に見せるということ、そして、二つのキャラクターを歌い分けれる実力を示したことが大きい。
歌い分けは非常に明確だった。
男性パートは、響きを低い部分に固定し、チェストボイスを多用する。チェストボイスのポジションで、全体の歌の響きを固定することで、男性の歌声を強調している。
それに対し、女性パートは、響きを上に固定した。即ち、鼻腔から額にかけての顔の前面、フェイスボイスのポジションに響きを集めることで、明るめで高い響きを表現している。この明るめの高い響きで全体を歌うことで、聴き手にハッキリと、男性パートとの違いを植え付けることが出来る。
こうやって歌い分けを確実に実現することに成功したのだ。
二つのパートの分離が成功すれば、ハーモニーを形成することは容易である。
一つの歌声で響きのポジションだけを変えているのであるから、声の波長は同じになる。
一つの波長で作られたハーモニーは完全に一致する。
二つの歌声のデュエット部分は見事だった。
デュエットの理想型ともいえる形をしていた。
二つの歌声が一つになったり、二つに別れたり、そのメロディーラインによってハーモニーの増減が表現される。
一つになる時は完全に一致し、二つに別れる時には、それぞれのメロディーラインが綺麗に独立して存在感を示す。
まさにハーモニーの理想をそのまま実現したような歌声だった。
手越祐也の歌手としての可能性は無限大だと感じる。
今までに蓄積されてきた音楽、歌のテクニック、表現力などが、これからどんどん花開くだろう。
あとは、良いオリジナル曲に恵まれていくこと。
手越祐也という独自性を確立し、他の歌手との差別化が測れるかどうかで、ポジションが確立出来る。
YouTubeチャンネルで配信することで、彼のキャラクターは多くの人に認知されていく。
歌には、その人のパーソナリティーが必ず現れる。
結局、生き残っていく歌手は、真面目でストイックな人ばかりだ。
そうでなければ、音楽を長く続けることは出来ない。
小手先の上手さだけでは、長く歌い続けることなど決して出来ないのである。
どんな環境の中でもコツコツと諦めずに音楽に向き合ってきた人間だけが生き残れる世界である。
手越祐也もその一人になるだろう。