「白雲の城」は、2003年2月リリースの6枚目のシングルだ。
その年のレコード大賞最優秀歌唱賞と有線大賞を獲得している。
この曲は彼のファンが最も好きな曲の1つだと聞いた。確かに以前、ブログで氷川きよしの曲の中で好きな曲は?と聞いた時、この曲をあげる人が多かったのを記憶している。
2019年の年末スペシャルコンサートで歌われたものを聴いた。DVDを送って下さった人がいたからだ。
「白雲の城」は演歌の王道を行く楽曲だ。
スケールの大きさ、構成力。
楽曲として文句のつけようがない演歌の王道だ。
この曲を彼は真正面から捉え、堂々と歌いきっている。
氷川きよしの歌手としてのスケールの大きさを感じさせる一曲だ。
この楽曲は非常に声量を求める。
曲の流れがゆったりとしていて、長音符が多い。長音符が多いということは、それだけ歌声をキープすることが求められる。
氷川きよしは、この曲を見事な声量と伸びやかな声で歌いきっている。
腰の座った発声は、この人の発声が身体を使いきった発声であることを証明している。
しっかりと体の軸を固定し、ズドンと声を真っ直ぐに身体の中に通していく。
高音部の伸びやかな歌声は、力強く、芯のある響きは、声が足元のまだ下。よく私達がレッスンの時に指導される「土の中から息を通せ!」と言われる発声そのものだ。
身体の軸がぶれず、腰が座り、身体が大きな筒のようになっている。その中を足元のまだ下からズドーンと息を通して歌う。まさにそういう歌い方を連想させる。
朗々と長音符の連続フレーズを歌い切る彼の歌声は、まだ余力を感じさせるものだ。
そして不思議なのは、これほどのド演歌でありながら、演歌臭を感じさせない。
これほどのド演歌であるなら、多くの場合、演歌特有のこぶし、低音部の唸りが存在する。しかし彼の場合、それが一切存在しない。
いわゆる演歌特有の粘りがないのだ。
これが彼の演歌が他の演歌歌手と一線を画す大きな要因でないかと感じる。
音楽の流れは非常にゆったりとしていて、その場に止まりがちだ。しかし、彼はその流れを確実に前へ進めていく。伸びやかな歌声で音楽を確実に前へと進める。
彼の淀ない歌声には混濁が一切なく、余分なビブラートも存在しない。
ストレートボイス。
こぶしも殆ど存在しないこの歌声で、彼はド演歌を歌いきっていく。
これが氷川きよしの演歌の魅力だと思った。
彼は「こぶしをつけるのに非常に苦労した」と言うが、このストレートボイスで歌うからこそ、彼の演歌は万人に受け、演歌を好まない人でも彼の歌に耳を傾ける。
「白雲の城」は彼の演歌の魅力を果敢なく伝えきった一曲である。
それにしても42歳。
彼の歌声は年齢の壁を感じさせない。
これだけの声量と伸びやかな歌声を持っていれば、歌は自由自在になる。
歌うことが楽しくて仕方ないはずだ。
氷川きよしはもっと上手くなる。
そう思った。