この歌を初めて聴いたのは、9月に参加したコンサートだった。
ツアーのタイトルにもなっている「あなたがいるから」はスケールの大きな楽曲になっている。
氷川きよしの演歌色を消したバラード曲で、ロングトーンを多用したフレーズがサビに繰り返し用いられている。
冒頭の歌い出しは、中音域から始まる。ビブラートのない綺麗なストレートボイスが響いている。
それに続くフレーズでも中・低音域が主になっており、彼のこれらの音域の特色が十分感じられる作りになっている。
彼の低音域の印象は、どちらかと言えば女声のアルトに近い。
ビブラートがなく綺麗な低音域の響きをしているが、それは男性のイメージからは程遠く中性的である。
その持ち味が演歌ではなく、JPOPになると顕著になるのは、演歌では、どうしても中・低音域の響きにこぶしを混ぜていくからだろうと感じる。またJPOPではフレーズの語尾の力を抜いて歌うことが多いが、演歌ではそれはない。あくまでもフレーズの最後の音まで響かせる為に、必要以上に力で押すイメージがある。
氷川きよしの歌も演歌の場合は、その傾向を感じることが多い。
しかし、この曲のように、JPOPの曲の場合は、彼は意識して歌い方を変えていると思われる。即ち、余分な力みが感じられないのだ。ところどころ、少し演歌特有の発声を感じる部分はあるが、曲調によって歌い方を変えることができるのは、それだけ確かなテクニックを持っている証拠とも言える。
演歌の場合、その独特な世界観の為に、詩に描かれた世界観の方がクローズアップされやすく、歌手の音楽性が問われることは少ないような気がする。
しかし、JPOPの場合は、歌手の音楽性がそのまま世界観に投影されることが多く、独自性、オリジナリティーを強く求められるものでもある。
氷川きよしが演歌歌手のカテゴリーを外すと言ったのは、演歌というジャンルが歌手氷川きよしの音楽の世界の中の一つのジャンルになったということであり、他のジャンルと並列になったということである。
彼が今後、どのジャンルを主体的に歌っていくのかによって、彼の歌はさらに変容する可能性があるということを多角的な歌声から類推することが出来る。
「あなたがいるから」はそういう彼の音楽の世界のバラードの王道をいく曲だと思った。