たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、『Habit』で2022年度の日本レコード大賞を受賞したセカオワことSEKAI NO OWARIを取り上げます。世代を問わず、多くの人を虜にする魅力はどこにあるのか、1人が楽曲を作るのではなく、メンバー同士で作り合う楽曲のスタイルなど、独自の世界観を持つ彼らの魅力を探りたいと思います。
夢の世界に連れて行ってくれる、そのステージ
今年、結成18年目を迎えるSEKAI NO OWARI(以降、セカオワ)の大きな魅力の一つは、ポップで大掛かりなステージセットでのライブ。
ライブ会場には、親子連れなどもいて、どの世代でも家族みんなで楽しめる、という空間作りをしているのが伝わってきます。
ステージは、まるで「おとぎの国」か「魔法の国」に迷い込んだよう。巨大な木が組まれ、枝の上にはツリーハウス。
カラフルな舞台装置だけでなく、彼らの衣装もその時のテーマに合わせたポップなものだったり、シリアスなものだったり、と、彼ら自身が、夢の空間に溶け込んで、観ている者を現実離れした世界へと誘っていきます。
ステージセットや彼らを見るだけでワクワクするような、そんなセカオワの原点。
それは、バンド結成前に作り上げた「club EARTH」(京急大鳥居駅)。このハウスは、Fukaseがバンドをやると決意して、Nakajin、Saori、DJ LOVE(初代、現在は2代目)に声をかけ、一緒に約1年かけて作り上げたライブハウスです。
セカオワの原点はここにあった
実は、バンド結成前、Fukaseは精神を病んで一時期、閉鎖病棟に入院していた経験がありました。
その後、自分の周囲に残ったのは、昔からの仲間と音楽だということに気づき、バンド結成をするために、幼馴染の中島と初代LOVEに声をかけたのです。
彼は、バンド結成のために、仲間が気兼ねなく集まり自由に音楽ができる場所が欲しいと思って、当時、印刷工場だった建物の地下に「club EARTH」を作ったのでした。
作ると言っても、お金も何もない彼らは、自分達で防音壁を取りつけたり、ペンキ塗りや電気の配線工事なども行って、約1年かけてライブハウスを作り上げました。
そうやって、ほぼ1年後の2007年、ライブハウスは完成し、バンド「世界の終わり」(結成当時は漢字表記だった)を結成したのです。
「世界の終わり」というインパクトの強いバンド名は、彼自身のADHDや、それに伴う閉鎖病棟での体験など思春期の壮絶な経験と絶望感を抱く辛い体験の過去の中で「自分の世界は終わった」と感じたとのこと。
けれども周囲を見渡せば、仲間や音楽が残っていることに気づき、いつからこんなに友達ができたんだろうと思ったら、精神病棟で「自分の世界は終わりだな」と思った瞬間から始まっているような気がして、そこから始めてみよう、と思ったことが、グループ名の由来になっていると言います。(※)
メジャーデビュー。そして、「SEKAI NO OWARI」へ
続きはこちらからSEKAI NO OWARI『聴く人全てをファンタジーな世界に連れて行く魔法の音楽』(前編)人生を変えるJ-POP[第49回]|青春オンライン (note.com)