たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、きゃりーぱみゅぱみゅを取り上げます。2021年、デビュー10周年を迎えた彼女は、今年、アメリカを始めとする海外4カ国7都市のワールドツアーを開催中。多くの海外ファンに支持される彼女の魅力と中田ヤスタカが彼女のためにプロデュースする世界に迫りたいと思います。
(前編はこちらから)
耳障りの良いことばのオンパレードで、心に入り込む
中田ヤスタカが作り出す世界は、アーティストに強烈なキャラクターを与え、そのキャラクターが演じる世界を徹底的に映像で伝えていくというものです。
さらにタイトルや歌詞に、擬声語や擬態語、また日本語の単語の語尾を変化させた造語や日本語と英語の単語を組み合わせたものを挟み込むことで、独特の耳触りの良いことばの流れを作り、それを中毒性のあるサビのメロディーに乗せて何度も何度も繰り返していく。
そうすることで、日本語を理解しない外国人にとっても、ことばが音のように耳の中に残って簡単に誰もが口ずさめる形に仕上げています。
このことによって、日本語に馴染みのない海外の人が抵抗なく彼女の歌を受け入れていくという状況を作り出しているのです。
『つけまつける』や『にんじゃりぱんぱん』『ふりそでーしょん』などのタイトルのように日本語の語尾を変化させて耳触りのいい造語に作り替え、それを歌詞の中で繰り返させる。
これらの音の並びは『CANDY CANDY』や『インベーダーインベーダー』のような英語の単語を繰り返し使ったタイトルと同じような音感で外国人の耳に残るでしょう。
また、『ファッションモンスター』『きらきらキラー』『ガムガムガール』『メイビーベイビー』のように、音の流れが同じ単語を組み合わせることで、日本語に対する抵抗感を取っ払い、言語の壁を簡単に超えていける世界を作り出しているのが、きゃりーの特徴です。
すなわち、全く知らない日本語も海外の人に音符のように聴かせて音楽と一体化させることで従来のJ-POPにはなかった世界を提供しているのです。
日本語のことばの意味はわからないけれど、リズムに乗った耳触りのいい音が粒のように並んで耳に入ってくる。その内容は映像を見ればわかる、という印象を与えているのが最大の特徴ではないでしょうか。
これはJ-POPの従来の特徴である「歌って聴かせる」という歌詞に重点を置いた音楽にはなかった世界観と言えるでしょう。これが海外のクリエイターやアーティスト達に、「中田ヤスタカの音楽に影響を受けた」と言わしめる理由と考えます。
「誰が歌っているか」と同じくらい重要な「誰が作った音楽なのか」
続きはこちらからきゃりーぱみゅぱみゅ『現代の日本文化を音と映像で切り取るアーティスト』(後編)人生を変えるJ-POP[第27回]|青春オンライン (note.com)