氷川きよしの20周年記念コンサート「あなたがいるから」に参加してきた。
「あなたがいるから20年歌い続けてこれたんです」と彼はファンに向かって言った。
「今日から演歌歌手というカテゴリーを外します。歌手氷川きよしとしてアーティストを目指します」
そう宣言した彼の言葉にこの20年の苦悩と歩みが凝縮されているようなコンサートだった。
「演歌歌手なのに」「演歌歌手として」と言われる度に「どうして人間氷川きよしとして見てくれないんだろう、と思った」と彼は言った。
私は今まで演歌歌手のコンサートに参加したことがなかった。また正直言って、そういう日が来るということも想像していなかった。このブログを書き始めた時も私の中でのJPOP歌手のカテゴリーに演歌ジャンルはなかった。
「演歌は特別なもの」「演歌を聞いてもわからない」という固定観念のようなものが私の中にあったからだ。
演歌歌手は総じて基礎がしっかりしている人が多い。また演歌特有の発声、例えば民謡経験者だったりして独特の発声をする人も少なくない。その為に私のレビューの範疇を超えていると感じることが多かった。
しかし、そんな中でも氷川きよしは印象が違った。それは彼の歌う演歌にはいわゆる演歌臭を感じさせるものが少なかったからだ。リズミカルでポップス系の楽曲という印象を持っていた。それが彼の若さから来るものなのか彼独特の世界観から来るものなのかわからなかった。
だが今回、彼のコンサートに参加して、それは彼独特の世界観から来るものなのだと知った。
私はこのコンサートに参加出来て本当に良かったと心から思う。なぜなら20周年記念コンサートということで彼の20年の演歌歌手としての歩みの集大成のようなプログラミングだったからだ。またそれだけでなく、歌手氷川きよしという人がどういう人なのか、それを十分感じることが出来るコンサートだったと思う。
私のように彼の楽曲をそれほど知らない人間にとって、冒頭の未発表の曲は小林幸子の大掛かりな装置を連想させ、演歌のコンサートというものはこういうものなのだろうかと感じるさせるものだったが、これも20周年記念コンサートの企画だったということなのかもしれない。しかし、正直、始まりの何曲かは馴染みもなく私は少し冷めた目でコンサートを眺めていた。
最初から私の頭にあったのは、彼が44曲(実際には大阪では45曲歌うと彼は言った。アンコールの後の一曲が用意されていない特別な彼のサービスだったとしたら46曲だったのかもしれない)も歌わなければならないということだった。
夜の部は16時半開演。コンサートは3時間半。11時半開演の昼の部が終了したのは15時過ぎ。
僅か1時間半足らずの休憩で合計90曲近くを歌うことの喉への負担がずっと私の頭の中にチラついていた。だから冒頭の何曲かは集中出来なかった。しかし私の心配は杞憂に終わった。彼は最後の一声まで何ら変わることなく美声を披露したからだ。
特に最終曲「蒼し」のエンディングのアドリブは圧巻だった。
とても3時間半、歌い続けた歌手の歌声とは思えないほどの、そして今まで聴いたことのない彼の渾身のハイトーンボイスだった。
そのアドリブの歌声は演歌歌手というカテゴリーを感じさせるものはどこにもなく、ただそこにいるのは、ハイトーンボイス歌手氷川きよしだった。そして、その歌声に彼が目指すと言った「アーティスト」への可能性を大きく感じた。
演歌歌手というカテゴリーを自ら外し、ジャンルに捉われない挑戦をしていく。
「氷川きよしでなければ伝えられない世界を音楽を通して伝えていく」
「歌手だから音楽で皆さんに伝えていく」
「人間氷川きよしとして伝えていく」
この日の彼の言葉には、これから大きく変わっていこうとする決意が漲っていた。
演歌歌手氷川きよしの20年の歩みは、この日を境に一つの区切りを迎えたのだと思う。
第一幕の歩みは終わり、歌手氷川きよしとしての第二幕の歩みが始まる。
そんな場所に立ち会えたファンは幸せだ。
氷川きよしはこれから大きく変貌するかもしれない。
「命の限り歌手を続けていく」と言った言葉通り、これからの彼の歩みを見たいと思った。