B’zの稲葉浩志は非常に声帯をストイックに管理するので有名だが、管理することが歌手の歌声にどのような影響を与えるのかの検証をしてみようと思う。それで、1993年と2008年の動画を見つけたので、それで比較してみようと思う。

2008年のLiveと1993年のLiveでの動画を。同時に聴くとよくわかるように、15年後であっても稲葉は同じキーポジションで歌っているのは見事だ。

 

彼は喉を大切にするので有名だが、歌手にとっては声帯は命だ。

声帯も筋肉の一部であり、粘膜が閉じたり開いたりすることで声が出る。この粘膜が上下に伸び縮みすることによって、高い音が出たり低い音が出たりする。

声帯も当然、他の筋肉や運動器官と同じように、加齢によって声の音色や声域の変化が出る。

即ち加齢による老化によって歌声そのものが変わったり声帯の動きが悪くなることによって音域が狭まったりする。そういう点で歌手は運動選手と似ている。

歌も身体の筋肉を使うことによるスポーツの一種と考えるとわかりやすいかもしれない。運動選手がいつまでも運動出来ないのと同じように歌手も加齢との闘いになる。

歌手寿命を伸ばすのは徹底した自己管理と摂生。そして声帯に負担をかけない無理のない正しい発声だ。その二つのことが出来ている歌手だけがいつまでも歌声を保ち続けることが出来る。

 

稲葉はいつまでも歌声を保ち続けている数少ない歌手の一人と言えよう。さらに彼の歌声は2008年の方が進化している。即ち、若い頃に見られたような無理に抑えたような癖のある発声ではなく素直に伸びやかな発声をしているところである。

彼の発声が、いつごろ、このように素直な発声に変わったのかは注意深く検証する必要があるが、玉置浩二や井上陽水、小田和正といった歌手にもその傾向は見られる。

えてして若い頃に十分な声量を持つ歌手は、その声量をコントロールするためにわざと力を入れた発声をしがちになる。それが年齢を重ねるに従い余分な力が抜けて素直に声を出すということに価値を見いだすのかもしれない。

また稲葉の場合は、声帯を痛めて、2004年初頭に声帯の手術をしている。その後、「非常に声帯の管理に気をつけるようになった」と話しているから、発声も声帯に負担のかからないような発声に転換した可能性が考えられる。また、十分に管理された声帯は反応がいい状態が保てる為に、楽に声が出せるようになる。

 

この曲に使われている稲葉の歌声は、2008年の場合、非常にしなやかで響きがすべて鼻腔に見事にあたった音色で揃えてきている。これが1993年の歌声では高音部をわざと絞ったような声に作り開放的でない。その違いは明確であり、中音域や低音域では、それほど遜色のない歌声であるとも言えるが、どちらかと言えば1993年当時の方が全体的にハスキーな歌声と言えるだろう。

2008年の歌声は非常に透明性が高く、また中音域においては甘い響きを披露している。年齢を重ねたことで響きが濃厚になる歌手は多いが、彼の場合は伸びやかさも同時に手に入れている。

 

稲葉の歌声は、今はもっとさらに伸びやかだ。

加湿器をホテルの部屋に持ち込み刺激物を一切取らず、マスクを常用して喉を守ることを第一に考え、肉体を徹底的に鍛えている姿からは加齢による影響は全く感じられない。

 

年齢を重ねても歌声を維持している歌手は、実は非常にストイックな生活をしている。

華やかなステージの影で、血のにじむような努力を積み重ね、歌声を保ち続けている歌手は多い。

稲葉の歌声は徹底した自己管理によって生活することで、年齢を重ねても歌声を維持出来るということの証明でもあると言える。