たったひとりのアーティスト、たったひとつの曲に出会うことで、人生が変わってしまうことがあります。まさにこの筆者は、たったひとりのアーティストに出会ったことで音楽評論家になりました。音楽には、それだけの力があるのです。歌手の歌声に特化した分析・評論を得意とする音楽評論家、久道りょうが、J-POPのアーティストを毎回取り上げながら、その声、曲、人となり等の魅力についてとことん語る連載です。
今回は、海外でも精力的に活動を続けているRADWIMPSの野田洋次郎を扱います。彼は、現在、NHKBSドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』の辞書編集部主任役で、俳優としての才能を発揮していますね。また、ソロプロジェクトillionとしても才能を発揮しています。そんな彼の魅力について、書いてみたいと思います。
(前編はこちらから)
RADWIMPSはロックバンドですが、ボーカリストの野田洋次郎の歌声には、ロック歌手のイメージはあまりありません。
40代でも変わらない声の音質
野田洋次郎の歌声を音質鑑定してみました。
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全体に透き通った声をしている
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響きの混濁がなく、声の響きが中央に集まっている
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ストレートボイス(ビブラートは感じない)
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真っ直ぐな響きだが硬さはない
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声の幅は太くも細くもない
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息もれやブレスの混じった音はなく、ブレスが全て綺麗に声に変換されている
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音色は明るい
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年齢を感じさせない若々しい歌声
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声域は中声区のハイバリトン
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少し鼻腔に響いた甘めの声
以上のような特徴を持つ歌声と言えます。
今回、彼の楽曲をいくつも聴いて感じたのは、デビュー当初と現在の歌声の印象がほとんど変わらないことです。
あえて言うなら、声量が今ほどは感じられない、ということと、今よりも中性的でややブレスの混じった透明的な歌声ですが、基本的な音質は全く変わりません。
年齢を感じさせない透明感
この連載でも多くのアーティストを扱っていますが、彼のように15年以上のキャリアがあり、40代に差し掛かろうとする人の場合、20歳前後のデビュー当時の歌声と比べて、かなり音質的な変化をしている人が多いです。
ですが野田洋次郎の場合、「全く違う」という印象はありません。加齢の影響によって声帯に変化があるようには聞こえないのです。
むしろ、現在の歌声の方が、綺麗な響きをしているという印象を持ちます。とにかく、彼の歌声は、非常に明るく澄んでいて、真っ直ぐな響きのストレートボイスなのですが、硬さは全くなく、非常にバランスの取れた若々しい歌声、という印象なのです。
極端に言えば、「年齢を感じさせない声」。どちらかといえば、小田和正に似た音質の透明感と言えます。(厳密に言えば、小田和正の方がかなり甘い響きですが、同じ響きの系統を感じました)
透明なのに甘い響き。これが野田洋次郎の歌声の特徴と言えるかもしれません。
NHKBSドラマ「舟を編む」に出演中の池田エライザが、共演しているときに彼の美しい声を聞くと「ああ、ラッドの洋次郎だ」と感じて、贅沢な思いをしている、と話していましたが、確かに彼の話し声は、歌声とほとんど変わりません。
歌手によっては、話し声の響きと歌声の響きが大きく異なる人もいますが、彼の場合は、ほぼ同じなのです。話し声も透明性の高い響きをしていて、話している流れで、そのまま歌に自然と入っていけるタイプですね。